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ゆびきりげんまん

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今年で帝人は五歳、幼稚園の年中組さんだ。
大きくなったね、じゃあ少しお兄さんになってみようか。そう言った母から渡されたのは家の合い鍵。
忙しい帝人の両親に代わって、普段は隣の家に住む折原家の誰かが帝人を幼稚園まで迎えに来てくれる。その役目は大半が長男である高校生の臨也で、家に帰ってきたら両親が返ってくるまで折原家で過ごすのは最早定番だ。
そんな状況で母親が帝人に鍵を渡したのは、帝人が無くさないだろうと言う大きくなった息子への信頼と、いつも世話をしてくれて自由に遊べていないんじゃないかと隣家の息子を気遣う気持ちからだった。
母から貰った鍵を無くさないように首に付けられるチェーンに通し、わかりやすいよう黒猫のキーホルダーをつけ、自分専用になった鍵を帝人はきらきらとした眼で眺める。
「臨也君の迷惑になりそうな時はそれを使って家に入って、私が返ってくるまで大人しく待ってるのよ?」
「うん!ぼくがんばるっ!えっと…これ、いざにぃにみせてきてもいい?」
自分がお兄さんになった証しを早く見せたいとうずうずしている帝人に母親は微笑みながら、いってらっしゃいと頭を撫でてくれた。
いってきますと勢いよく飛び出した帝人は、三十歩の歩数で隣家の玄関に辿り着く。チャイムまで手は届かないので、「こんにちはー」といつもの様に声をあげる。折原家の誰かしらがいれば、笑顔出迎えてくれるのを帝人は知っている。
「いらっしゃい、帝人」
そう帝人を出迎えてくれたのは目的の人物、臨也だった。臨也の姿を見て、ぱあっと帝人の表情が輝くのを見ながら「中に入りな」と臨也は少年を家の中へ促す。
おじゃまします、と丁寧に挨拶をしてリビングに入った帝人は、定位置になっているソファーの上に飛び乗る。
そして臨也が自分の隣に座ったのを確認してから、待ってましたとばかりに臨也に合い鍵を見せた。
「いざにぃ、これ見て!お母さんがくれたの」
「うん?これは…帝人の家の鍵かな」
「うん!ぼくがすこしおにいさんになったから、みかどもなくさないわよねっ。これでいざにぃがたいへんなときには、ぼくおうちにかえれるんだよ!おじゃまむしにはならないんだ」
実は今までも臨也は帝人の母から彼の家の鍵を預かっていたから、本当に無理な時は帝人を一人家にいさせることもできた。だけどそうしないで、毎日帝人の相手をしていたのは臨也の意思なのだがそんなこと帝人は気付いていないだろう。
「そっか…よかったね」
「?いざにぃ…どうかした?なんかさみしそうだよ」
臨也に頭を撫でられながら不思議そうに見上げてくるその瞳はまっすぐで、いつも臨也と一緒にいるだけあって臨也の表情をちゃんと読み取る。元々帝人は感情の機微に敏感な子供だ。
敵わないなぁ、とくすりと笑みを零し、臨也は隣に座る帝人を抱き上げ膝に乗せた。
「帝人君がお兄ちゃんになったのが少し寂しかっただけだよ」
「どうして?」
「鍵もあるし、大きくなったら帝人は俺なんかいらなくなるかな~て思ったの」
「…いらなくならないよ?ぼく、いざにぃだいすきだよ?」
可愛い事を言ってくれる、とにやける顔を放置してその小さな身体をぎゅうっと抱きしめる。
臨也だって今すぐ帝人が自分から離れていくとは思っていない。むしろ離そうだなんて一欠けらも思ってない。
何としてでも帝人を自分の側に置き、大事に育ててゆくゆくは…なんてことは随分前に計画立ててある。
だが、帝人の成長をこうやって目の当たりにすると、空虚感を感じてしまうのは人間として当然なのだろう。
「俺も大好きだよ。でもね…こういうのは何て言うか、そういう問題じゃないんだ」
「いざにぃは、あいかぎきらい?」
「そうじゃないよ」
「……じゃあ、これはいざにぃがもってて!」
「え?」
臨也の腕の中でもぞもぞと動き、首を後ろに反らす形で臨也を必死に見上げ、首に下げていた鍵を臨也に向かって掲げる。
「ぼくがもしおうちにかえりたくなったら、いざにぃにいうから!だからもってて!」
「いいの?」
「うん!いざにぃがさみしくならないように『ひとじち』!」
「人質…ていうよりは、お守りかな?」
「じゃあ『おまもり』!」
はいっ、と元気よく鍵を差し出す帝人に蕩ける様に甘い笑顔を見せ、臨也は「ありがとう」と囁く。
「でもこの鍵は帝人が持ってていいよ」
「え、でも」
「俺が帝人を迷惑に思うことなんてないから、いつだってこの家にいていいんだ。でさ、それとは別で。今度、その鍵を使って帝人が自分で家の鍵を開けて帰る」
「いざにぃは?」
「その時は遊びに行くから、帝人が嫌じゃなかったら、俺を帝人が出迎えてよ。遊びに行くから」
「ぼくのうちに?」
「帝人の家、あんまり行ったことないしね」
「…わかった!じゃあ、こんどぼくがいざにぃのおせわするね。おでむかえ!」
「お世話、ね。うん、楽しみにしてるよ」
「ぜったいだよ!あそびにきてね」
指きりをしようと小指を出す帝人を微笑ましく思いながら、臨也は差し出された指に自分の薬指を絡めた。


【ゆびきりげんまん】


成長は別れじゃなくて新しい約束になる。
今も帝人の胸元で光る鍵がその事を教えてくれた。
作品名:ゆびきりげんまん 作家名:セイカ