終わり間際の恋
「終わりにしましょう」
付き合い始めた頃から二人の間に流れる空気は、甘いものではなかった。言葉の一つ一つに罠を仕掛け、お互いの意図を探り合いながら時間を過ごした。
「そうだね…別れようか」
細い綱を渡るように、危険を感じながらも日々続く攻防。愛を囁きながらも、脳裏にあるのは次の相手の言葉に対する対処法だった。
「俺と過ごすのは楽しかったかい?帝人君」
「……ええ、有意義でしたよ」
始まった時から、きっとこの関係は終わっていたのだ。
暗い部屋の中、唯一の明かりだったパソコンの電源を落とせば、一気に闇に包まれる。
すぐ側にいた臨也の顔だけが何とか見えた。彼はいつものように全てを隠すように口元に笑みを浮かべていた。
「それじゃあ、これで」
そう言って部屋から出ようとした帝人の腕を臨也が掴んだ。振り返った帝人は、予想より間近に迫っていた臨也の顔に一瞬驚いたが、そのまま近付いて来た彼の唇を静かに受け止めた。
子供がするような、重ね合わせただけの軽いキス。舌を絡めたり、熱を分け与えたりするような深い交わりではないのに、ただ重なった唇が、どうしようもなく熱く感じた。
「……折角だから、最後に、ね」
「次からはお金取りますよ」
「怖いなぁ」
楽しそうに笑う臨也に無表情で言葉を返す。もっと言い返そうと口を開こうとしたが、何を言えばいいのか分からず、結局沈黙を保つ。
「じゃあね、帝人君」
「はい……さようなら、臨也さん」
笑顔で隠された、本当の臨也の表情を見れないまま、帝人は部屋を後にした。
殺伐とした関係。最初から結末などわかりきっていた関係。
甘く触れ合いながらも、いつだって互いの距離を測っていた。
それでも
二人の間に『愛』は存在したのだ
【終わり間際の恋】
臨也は唇にそっと触れ、さっきまで触れていた相手に想いを馳せる。
帝人はこみ上げてきそうになる涙に気付かない振りをするため、空を仰ぎ歩き続けた。
その行動が、微かに残った二人の恋の証だった。