理不尽な戯れ
「静雄さんはずるいです」
家を訪ねた俺を出迎えるなり、帝人は開口一番こう言った。
「は?何だ、何かしたか俺?」
「……」
突然の発言に呆気にとられながら聞き返したが、帝人は黙ったまま中に戻り、何もない部屋の中央で正座し、俺も座るよう促した。戸惑いながらもそれに従い、俺も向かいに座る。帝人につられて正座で。
「静雄さんはずるいと思います」
「……何が?」
「高校生の時、身長何センチでしたか?」
「は?」
「良いから答えて下さい」
キッと俺を睨み上げてきた帝人に視線に気圧されながら、質問に答えるべく自分の記憶を辿る。
「高校……は、確か……入学の時に180くらい……じゃなぇか?」
「ひゃく……はちじゅう……」
不公平だ……、とがっくりと肩を落とす帝人の様子に、まさかと思って恐る恐る声をかける。
「帝人……身長なんか気にしてんのか?」
その言った途端、帝人はバッと顔を上げ叫ぶ。
「なんか、ってなんですか!!?僕的には重大な問題です!静雄さんは大きいから気にならないかもしれないけどっ」
「いや、別にいいだろ……小さくても」
「小さくありません!僕は普通です!!!!165センチは普通です!!」
「…………」
そうやって気にする姿が可愛いと言ったら怒るだろうか。
ぶつぶつと小声で文句を言っている帝人に表情が緩む。
「ちょっと動かないで下さい」
「あ?帝人?」
「いいから座ってて!」
暫くして文句を言うのに飽きたのか、帝人は俺の前に膝立ちになる。そのまま俺の頭に手を置き、髪をわさわさと触り始める。
「お、おい。帝人?」
「静雄さんの頭って、いっつも僕の頭上にあるから触りたかったんですよね……」
最早指圧に近い力で頭を押し下げられるように力が込められる。声が笑っていない。
「あ、静雄さんてつむじ左巻きなんですか」
そう言って、ぐりぐりとつむじを押しつける指は全然痛くないが、どう反応したらいいか困る。
「ふふふふふ。なんか楽しいです」
「……そうか、よかったな」
いまだ髪を撫でまわす帝人に軽くため息をつきながら、とりあえず理不尽な恋人にもう少し付き合うことにした。