プリーズプリーズ
少しくらい励ましてくれたっていいんじゃない。
わかりきったことを聞いたんだからその返事に失望することなんてないんだけど、わかりきってるのに聞いてしまうのはやっぱり違う答えがほしいからだ。
なあに、甘えてるの、気持ち悪いからやめろよ、と、フランスは笑う。
「おれも、おまえも、愛してほしいなんてひどいわがままだよ。愛しい相手の手を、そいつが一番傷つくやり方で振り払ったんだから」
もう中身のないワイングラスをゆったりと手の中でもてあそびながらフランスは言った。
わかってる。そんなこと。わかりすぎるくらいにわかってる。
「でもすきなんだ。いとしいんだ。どうしていいかわからないんだ」
泣き言なんて普段はひとにもらしたりしないのに、酒が入って涙もろくなっていた俺の口からはぼろぼろと心の内にため込んでいたおもいがこぼれ落ちてしまう。
「アメリカ」
フランスに呼ばれておれはのろのろと顔を上げた。
聞き分けのない子供を見つめる愛情ぶかい親のような、あるいは哀れでどうしようもないものを見るときの諦念と同情のこもったような目をしてフランスはおれを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「心配しなくてもね、あの坊ちゃんがどれだけ意地を張ったところであいつはおまえを愛してるよ。泥沼みたいなもんだ。抜けられやしない。だからおまえはあいつに愛される。どうしようもなく」
フランスは言葉を切って、少し遠くを見るように視線を動かした。
「あのこもね、俺を愛するよ。刷り込みみたいなものなんだ。俺以外に愛しいものなんてないって目をして。そして言うんだ。「あなたの言葉なんか信じない」」
どくん、と心臓がはねる。
「坊ちゃんも、きっと同じだ。あいつはお前を愛してるが、それこそどうしようもないほど愛してるが、それだけだ。おまえの愛情なんてかけらも信じてない。その口でどれだけ永遠を誓ったって、別れの瞬間を覚悟しているだろう。おれたちがあいつらにした裏切りというのはね、結局そういうふうにおれたち自身に跳ね返ってくるたぐいのものだったのさ」
フランスの言葉が胸に刺さる。
そうだ。イギリスはおれを愛してる。イギリスはおれを信じていない。
この二つの事実は彼の中に少しの矛盾もなく収まっていて、おれは未来永劫どれだけがんばっても彼に信じてもらうことはできないだろう。
そうだ、最初の言葉は間違っている。
おれは彼に、俺自身の愛を信じてほしい。
あいしているって、伝えたい。
そうした上で愛してほしい。
「無理だよ」
フランスがまた否定する。
「きみは、それでいいの」
少しも報われない。互いに愛し愛されているけれど、大事なところで少しも通じあえていない。
こんな不毛な関係で。
「仕方がないよ。原因を作ったのは俺自身だもの。それがたとえ、俺が望んだことじゃなくてもね」
困ったような、弱気な顔で笑って、フランスはワインを手酌であおる。
「どうしようもなくやるせない気持ちになるときがあったとしても、それは誰でもない自分自身の責任だ。おれはあの子を愛してる。愛してるから逃げたくない。あのこにつけた傷の深さから」
憂いを帯びた深い青の目が伏せられる。
「懺悔はしない。許されようとも思わない。救われようとも、思わない。ただあの子を愛してる。それだけだ。愛してる」
俺は俺が、彼に付けた傷と向かい合うべきだったのだ。