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この日、善き哉

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見て下さい、と望美が泰衡の眼前に突き付けてきたものは、小豆を煮たもの――のように見えた。
「何だこれは?」
「眉顰めないで下さいよ」
 質問には答えず、望美は先に不満を口にする。
「その小豆は何だ?」
「善哉です」
「ぜんざい?」
 聞いたことのないものだ。
「小豆を甘く煮て、お餅と食べるんです」
「…何故それを今、持ってくる?」
 甘く煮た、とは。また妙なところで贅沢をしている。泰衡は一層、眉間に深い皺を刻む。
「譲くんに教えてもらいながら作ったので、味は保証します!」
 料理の才能に一切恵まれていないこの妻が作ったとは。
 ――全てを拒みたい。
「一緒に食べようと思って」
「…執務中だ」
「少し休憩。いいでしょう?」
 押しが強いのは彼女の美点か欠点か。
「餅は平素に食すものではない」
「余ってるの使ったんです」
 溜息をつく。否やと言えば、どうせしつこく食い下がるに決まっていた。
「食べたらすぐ、伽羅御所へお戻りになるな?」
 はい、と彼女は頷く。もう一度、盛大に息をついた。
 仕方なく、彼女の手から碗と箸を受け取り、食べてみる。不味くてどうにもならんということはない。黙って、箸を進めた。
 望美も隣で、同じものを食べながらにこにこしていた。
作品名:この日、善き哉 作家名:川村菜桜