帝人君誕生日おめでとう!
正臣からは新しい携帯のキーホルダーを、杏里からは手料理をご馳走してもらった。
鍋の時から仲良くしてもらっているセルティと新羅からは紅茶のセットが届き、
ワゴン組からは何かのキャラクターの下敷きとシャーペンをもらった。
初めて多くの人に祝ってもらえて、それがとても嬉しくて嬉しくて、帝人は笑みを零す。
心の奥底でもっともお祝いを言って欲しい人に言ってもらえない哀しみに蓋をしたまま。
夜も遅くなりみんなが帰って行った後、帝人は静かになった部屋を見渡し、PCの時間を見てため息を吐いた。
見て見ぬふりをしていた哀しみは、静かになった部屋でむくむくと大きくなっていく。
「臨也さん・・・忘れてるのかな・・・」
帝人は抱え込んだ膝の上に額を置いて瞳を閉じる。思い浮かべるのは飄々とした恋人の笑顔。
臨也とは色々恥ずかしい路を経て恋人同士となった。
その恋人と初めて過ごす誕生日だったのだが、最近臨也と連絡が取れず、
みんなが祝ってくれると言ってくれたので、パーティーをしてもらうことになったのだ。
チラリとまたPCの時間を見つめる。
(後8分で終わっちゃうよ・・・臨也さんの馬鹿・・・)
ぎゅっと瞳を閉じないと、涙を零してしまいそうで。帝人は暗くなる気持ちを抑えることが出来ない。
その時、呼び鈴が何度も鳴らされたかと思ったらドンドンと強く扉を叩く音が響いた。
帝人の肩が驚きで跳ねたが、次の瞬間すぐに立ち上がって扉の鍵を開けた。
そしてすぐに扉を開けると、そこにはぼろぼろの姿のまま、息の荒い臨也が立っていた。
「はぁはぁ・・・間に・・・あっ・・・た・・・」
「いざやさ・・・」
臨也は肩で息をしたまま髪をかき上げると、帝人の目の前に花束を差し出す。薄ピンクのカーネーション。
帝人は瞠目しながら条件反射でその花束を受け取り、臨也を蒼い瞳で見つめた。
ばつが悪そうに臨也は帝人から視線を外すと、ぼそりと呟く。
「お誕生日おめでとう・・・おくれてゴメン」
眉を寄せて臨也はちらりと帝人を見つめた後、またすぐに視線を反らした。
「本当は早く終わるはずだった仕事に手間取って電話できなくてさ、それで誕生日プレゼントも買えずじまいで。
漸く今日の昼に終わったんだけど、電車は人身事故で動かなくなるし、タクシーに乗ったはいいものの渋滞に巻き込まれるし、
せめてケーキでもと思ったらシズちゃんに追いかけ回されてケーキ屋を破損させるし・・・。おかげで花だけになっちゃった・・・本当にごめんね・・・」
そう言うなり、臨也は帝人に対して深々と頭を下げた。あの矜持の高い臨也が一高校生に頭を下げたのだ。
「っ・・・・!」
臨也の言葉で先程まで哀しさで一杯だった胸に温かい熱が籠もる。
自分がどれほどこの男に愛されて思われていたのかが分った。
帝人はこみ上げる歓喜の奔流に流されるまま涙を零す。
「ちょ!帝人君ごめ!遅れて本当にゴメンね!」
臨也は顔を少し上げて驚いた。帝人がポロポロと涙の雫を零していたから。
「ちがっ・・・違います・・・!嬉しくって・・・!だから・・・っ・・・謝らないでっ」
帝人は慌てだした臨也に首を横で降ると、袖口で涙を拭いてフワリと笑った。心の底からの笑み。
帝人の微笑みに、臨也は胸をなで下ろすとその真っ白な額に唇を堕とす。
「臨也さん・・・」
「本当におめでとう。君が生まれてきてくれて、俺と出会ってくれたことに感謝を」
柔らかく微笑む臨也に帝人はまた涙ぐみそうになる。
そんな顔を見られたくなくて帝人は受け取った花束で顔を隠した。
臨也は花束越しに帝人を優しく抱きしめる。カーネーションの香りが帝人と臨也の間に広がった。
「愛してる。来年は2人だけで祝おうね」
「はい・・・!臨也さん!」
作品名:帝人君誕生日おめでとう! 作家名:霜月(しー)