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【トムデリ新刊】Love me tender【サンプル】

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倒れていた。
言われた言葉が信じられなかったけれど、確かに記憶がなかったことを考えれば、説明はつく。おそらく帰る途中で――バグが、起きたのだ。そして偶々、見ず知らずのこの男に助けられた。
「いや……迷惑かけたな」
一瞬パニックになりかけたものの、とりあえずはここに至った状況を把握して冷静さを取り戻したデリックが僅かに頭を下げると、男は意外そうに目を瞬かせた。
「……あんま、驚かねえんだな」
「まあ……たぶん、大したことじゃねぇし」
言いながら、毛布をのけてベッドから立ち上がる。なんとなく身体がだるい気はするが、特に異常はなさそうだった。
「おいおい、起き上がっちまって大丈夫かよ。つか、もしかしてよくあるのか? ……その、病気か何か」
「いや、そんなんじゃな……ああ、」
男の言葉を遮る様に首を振ったデリックは、目の端に止まった自分の荷物に思わずほっと息を吐いた。白とピンクの、派手なコントラストのレコードプレイヤー。それに付属した、同じ配色のヘッドフォン。それらを取り上げて、男を振り返る。
「んじゃ、世話んなったな」
「え!? や、全然……ってか、ちょっと待てって」
「は?」
「いや、その……そんな急がねえでも、もうちょっと、」
慌てたように引きとめる男に、デリックはまだ何かあるのかと首を傾げた。それから、濁した彼の言葉にああ、とうんざり頷く。
「礼がまだだったな。助けてくれてアリガトウゴザイマシタ。謝礼払えってんなら、後で俺の雇い主に請求してくれ」
そう言ってデリックは一旦荷物を下に置くと、スーツを探ってポケットから取り出した紙を男に向かって差し出した。
「っ! これ……」
そこに書かれた文面に、男が息を飲む。
Psychedelic Dreams Ver.02――デリバリーホストアンドロイド――そんな文面と共に、料金体制と各種可能プレイ、電話番号とメールアドレス等が書かれたそのピンクチラシには、誘うようにクールな笑みを向けるデリックの姿がプリントされていた。
「デリバリー、ホスト……アンドロイド……!?」
呆然とデリックの顔を見つめる男に、デリックは軽く肩を竦めてみせる。
「そう。俺は人間じゃない。あー……セクサロイド、つった方がわかりやすいか。だからさっき倒れたっつーのも、多分ただのバグだろうな」
最近データ整理サボってたからな、と内心でぼやきつつ、デリックは自身についての説明を続ける。
「んで、デリックってのが俺の名前。仕事はそこに書いてある通り、まあ、やるこたーデリヘルと変わんねーよ」
言って、デリックはああ、と何かを思いついたようににやりと口の端を上げた。
「なんなら試してみっか? 謝礼代わりにタダでしてやるよ。男でも全然、オッケーだからよ」
艶めいた表情でするりと男の顔に手を伸ばせば、男の意識が完全に自分に向くのがわかる。
「……は!? ちょ、何……っ」
手を触れた瞬間、我に返ったようにハッと身を引きかけた男の腕を引いて、デリックは先程まで自分が寝かされていたベッドに男を押し倒した。そしてそのまま覆い被さるように、相手の身体に乗り上がる。
「な、待っ……!」
「あんたがノーマルだろうがなんだろーが、ソッコーでイかせてやるよ」
半身を起して狼狽する男の言葉を無視して、言うが早いかそのスウェットに手を掛ける。
その瞬間――
「待てって!」
強い口調で怒鳴って、男がデリックの腕を掴んだ。