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世界の始まりを告げる鐘

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なんておかしな世界なんだろう。足の下に青空が広がってる。空だけじゃない。全てのものが上下逆さまになっている。ここは、もしかしたら不思議の国だったりするのかなあ。
 あ、逆さまのリナさんが呆れた顔でわたしを見ている。すごい速さで、リナさんの顔が過ぎていく。と思ったら、突然ばん、と身体が打ちつけられて痛みで世界が真っ暗になった。丈夫なわたしの身体だから、多分大きな怪我にはならないだろうけど。暗転した世界で、わたしが思ったのは一つ。
 ああ、わたし、落ちたんだ。

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 心地よい声が聞こえる。名前を呼ばれて、真っ暗闇から起こされる。眩しくて目を細めたわたしの顔を覗き込んだのは、リナさんだった。あ、起きたと小さく言って、私の手を引っ張る。リナさんの力を借りて、私は身体を起こした。青い空の中で輝く、栗色の髪に少し見惚れる。わたしも、リナさんのように伸ばしてみようかしら。

「ったく、もう。びっくりしたわ。あんたの高いところ好きは知ってたけれど。ねえ、アメリア覚えてる?」
「はあ、それが全く」
「でしょうね。ほら、あれ見なさい」

 そう言って、リナさんは高い高い木を指差した。首が痛くなりそうなところに天辺がある。

「あんた、あそこから落ちたのよ。いつものとおり、恥ずかしい台詞を言って足滑らしたのよ」
「ああ、そういやそうでした」

 頭を擦ると、後頭部が膨らんでいた。たんこぶができているのなら大丈夫だろう。そう判断すると、リナさんは呆れた目をした。さっきからリナさんは、わたしに対して呆れた表情しかしない。地味に傷つく。

「ところでリナさん、」
「なによ」
「目が覚めて一番最初に目に入る人は、好きな人だったらいいと思いません?」

 リナさんは一瞬呆気に取られて、目を丸くしたけれど、すぐに元に戻ってむしろにやにやした顔をした。

「ああ、それはごめんなさいねー、愛しのゼルガディスじゃなくって」
「なっ!!」

 いきなり、ゼルガディスさんの名前が出てきて、わたしは自分でもわかるほど真っ赤になった。誰もゼルガディスさんのことを言ってないでしょう!と怒ると、それは悪かったわねと謝る。だが、声と顔が謝っていない。にんまりしていて楽しんでること、明白だ。

「リナさんこそ、どうなんですか!というか、どっちがリナさんの本命なんですか!!」
「どっちって、誰と誰のこと?」

 何を寝惚けたことを!リナさんは、自慢の栗色の髪をなびかせてしらばくれる。ああ、綺麗だ。リナさんの本性を知っていながらも、素直にそう思う。

「ガウリイさんとゼロスさんのことです。かたやくらげ、かたや魔族ですけども!」
「あはは。アメリアも言うようになったわねー」

 軽やかな彼女の笑い声を、風が耳に運んでくる。そうねーと少し間を空けて、リナさんはどっちも違うんじゃないかしらと言った。へ?と間抜けな声を出した私を、リナさんは変な顔と笑い飛ばした。

「って、誤魔化さないでください、リナさん!」
「誤魔化してなんかないわよ。だって、想像できないんだもん」
「ほへ?」
「だから、目を覚めたら好きな人が傍にいるっていう幸せで素敵なことが、わたしに起こる気がしないのよ」

 そんな女の子のささやかな願いでさえも、想像できないと彼女は言う。そんなことない、それは言いすぎだとはわたしはすぐには言えなかった。普通では考えられないほどの高位魔族を滅ぼしたり、滅ぼすきっかけを与えたのだからもう普通の女の子には戻れない。そんな考え方は悲しいと思った。

「―――ねえ、リナさん」
「ん?」

 わたしはまだ痛む頭を擦りながら、さきほど目を覚ましたときのことを思い出した。自分の名を呼ぶ声、開けた世界から覗き込む赤い瞳、差し伸べられた手。嘘偽りでもお世辞でもなく、いてくれたのがリナさんでよかったと言ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。

「好きな人で想像できなくても、仲間ならできますよね。リナさんが倒れたら、わたしが必ずいますから」
「・・・・・・わたしはアメリアみたいなヘマはしないわよ!」

 お節介ながらも少しでもリナさんの考え方が変わるようにと言った言葉だったけれど、その緋色の瞳に自分の姿が映るさまを想像して少しどきどきしたのは秘密だ。
作品名:世界の始まりを告げる鐘 作家名:kuk