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Perfect Personal World / サンプル

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(本文より一部抜粋)


 壁は二方向しかなく、天井もない。ひたすらに三辺に広がり続けるこの場所は人間が見たら異様なんじゃないかな、たぶん。そう月島は思う。だってこの広さは俺の眼が悪い所為じゃ、ない。
 顔を上げても果ては見えない。どんなに目を凝らしても、どれだけ進んでも行き止まりはない。
 一昔前の図書室を再現した本棚が書籍の形を取ったイメージを乗せて延々と並ぶ。くすんだ背表紙に押された箔も擦れている。
 ここは八面六臂の生み出した空間、六臂の為の世界だ。ありとあらゆる書籍を読み込み、並び替え、分類する。全てを知り、全てを分かつ。
 無限に広がる本棚に囲まれるようにして置かれた大きなソファーは玉座のようだった。
 ヒトのカタチをとって長い足を組み座る六臂の姿は月島にとってまさしく王様だった。
 月島が長く伸ばした前髪の隙間から窺い見る六臂の横顔は綺麗だ。薄い唇、少し伏せた瞼、睫が影を作って、時たま落ちる細い黒髪。
 あ、ろっぴの目の色が濃くなった。月島は確認するようにして心の中でだけ呟く。
 データロード中の六臂の瞳は文字という獲物の全てを見通す為に鋭く遠く澄み渡る。それを月島は横目で、いつだって息を詰めて見ている。
(こわい、のに、見たい。俺は、おかしいのだろうか)
 全ての情報を取り込み、咀嚼するように瞳が閉じられるその一瞬のうちに月島はひそやかな息を吐く。