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I’ll be back soon.1

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気がつくと、俺は彼の体や、声や、心に触れることができなくなっていたのだ。






I’ll be back soon.1


殴り書きされた言葉だ。まるで感情にまかせたようで、几帳面な文字を、見つめながら、絵葉書を裏返し、息をのんだ。そこには同じサイズの同じ文字の形であの男の名前がしるされていた。
静雄は英語ができなかったからその手紙をもらったとき、新羅にあわてて電話した。どういう意味なんだ、ノミ蟲のやつ今どこにいるんだと、散々問いただして落ち着くように促された。いつか帰ってくるって。新羅はよかったね、と言った。
「どこへ?」
「えっ?池袋のことじゃないの?」
ここへ、と静雄はつぶやいた。呆然とした。手紙がきたときから思ったけれど、この手紙の意図がなんとなく見えなくてぐるぐると思考が躓いている。
もう何年も帰ってない奴のことなんか信じてないし、帰る場所になどならない。ここは。
どんなことをいったてもう、二度と帰ってこないのだろう、といつかつぶやいた言葉を手紙の向こうの相手にぶつけてみる。もう、二度と帰ってこないのだろう。俺は知っている。


臨也が姿を消したのは、どうしてなのかわからなくて、どうせ今まで不定期に新宿から出てきていたのがずるずると出ない日々が続いただけのはなしなのだと理解していた。
それは最初1カ月だった。2か月になってああ、殴りたい相手がいない、と他の誰かを殴った。5カ月、1年とのびていって10年がたって…。
そうして、彼のいない日々を過ごすうちにとうとう気付いた。あいつは死んだのか、それとも自分の足でどこかへ行ってしまったのではないか、と。ここではないどこかへ行ってしまったから、ここに帰らないのではないか、と。それはこの近辺ではなくて、とても遠い…。
そう考えるとまっさきに臨也のマンションへきてしまっていた。何度も何度もドアをノックするのに、返事がまったくなくて、あれ?と思って一日部屋の前で待ってみたりした。それでも誰も帰ってこないで、通りかかった臨也の取り巻きだった女に事情を聞いてみた。知らない、と彼女に言われて、あまつさえ、突然いなくなったのだといって泣かれてしまったときにはどうしたらいいかわからなくなってしまった。そうだ、新羅でさえ知らなかったことを彼女が知っているはずがない。
静雄は自分の足で探し始めた。仕事を休んだりはしなかったが、ああ、次はあそこへいってみるか、などとおもむろに足をのばしたりして、イライラを紛わせることはできても彼は見つからなかった。
最終的に帰ってきたのは臨也のマンションだった。ドアノブをひねったらあくんじゃねえか、と何度もたたいたあとで思った。勘は間違っていなくてそこは静雄を迎え入れた。
からっぽの、さびしくて寒いだけの、空家だったけれど、何もなくて、あの、いやみったらしい口数の一つさえ残さなかった彼の居場所。

だから、探さないことにしたのだ。




「いつか帰ってくるよ」
手紙をにぎりしめて思う。どうしてこの手紙が自分のもとへ来たのか、と。
帰ってくる場所なんてねぇ、どこにも
本当に、どこにもねえよ。
静雄は臨也のマンションの前にあのとき以来初めてやってきた。あかりはついていなくて、それが彼を落胆させた。ドアはあのときと同じにあいていて、静雄はそっと音もたてずにその暗闇へと足を踏み入れた。夜明け前の光がもうじき差し込むのさえ待ち切れなかった。
臨也はいなかった。
かさ、と音がなった。机の上の何かを触ったのだ、と静雄は思った。それは日本語で書かれていた。月明かりに照らすとなんとか判読出来るような文字の大きさで書かれていて、ところどころで文字が震えていた。
「シズちゃん、ここだ」
静雄は首をかしげた。それを待っていたように一行の文章が書き加えられた。
「気付いてよ。どうして見えないの」
ふ、と風のようなものが横切ったような気がした。頬とか手が暖かくなったような気がした。臨也?とつぶやくと、それはすぐに消えてしまった。
紙切れに書いた文字もそのすぐあとくらいに消えてしまって、見えなくなってしまった。

静雄はその紙をすかしたりして何度も覗いたけれど、それはなんの色の変化も呈していなかった。はやく見つけなければ、と静雄は部屋をぐるぐるとさまよったけれど、彼の痕跡は少しばかりもみつかりはしなかった。

作品名:I’ll be back soon.1 作家名:桜香湖