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I'll come back soon.2

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俺はもしかしたら殺されたのかもしれないな、と思った。
四木さんなんかが俺の体の周りにむらむらっと群がって運んで行ったらしくて、俺は呆然とした。そっか、俺の魂はもう体とつながってないんだと。
本当ならそのまま消えてしまう予定だった。死んだらすぐに死神的なのがきて俺の魂を一刀両断、the end!なんてのが終わりだと思ってた。言ったかもしれないけど、俺は死後の世界なんて信じちゃいない。ここで消えるのだと、信じていた。
ところがどっこい、道半ばで死んだ人というのは成仏が遅れるらしくてまさに俺はそんな感じだった。ラッキーなのかアンラッキーなのかはすぐにわかることで、少なくとも俺にとってはラッキーだった。死んだあとも人間を観察し続けることができるなんて。
不便することはとうぜんたくさんあった。こんなふうに現世にとどまっていても何もできやしないと嘆く人もいることだろう。万年筆の一つだってつまみあげることができないのだから、そりゃ普通なら何もできない。でも、不便じゃなかった。どこかのホラームービーのネタみたいに、携帯で生きてるひとにメールを打ったりなんかできる。ようは、死んだ人間がそこで誰かと物理的な接触を持つことが禁止されている、というだけなのだ。これは便利だ。逃げ回る必要さえこれからは皆無だ。
俺は生活に慣れて、何カ月もたったあとにシズちゃんにメールしてみた。やぁシズちゃん、俺死んじゃったんだよ、今後ろにいるよ!的な。俺はそうやって彼を驚かしてやろうと思ったんだ。生きてる人間がこわくないシズちゃんが、生きてない、見えない俺を怖がったりするのかな、とか興味があってポルターガイスト現象なんかも起こしてやった。だけど、シズちゃんにいざそれを見せようとすると彼の部屋は元通り片付いていたりする。メールももしかしたら届いてないのかもしれない。
俺は正直不満だった。波江に仕事を依頼するメールも、口座を動かすことも自分でできるのに、静雄に触れること、静雄に自分の存在を知らしめること、静雄に話しかけること、全部できなくなってしまったからだ。
なんでシズちゃんだけ…。俺が不満に思ってたときに俺の携帯に向けて電話がかかってきた。あんまり珍しかったのですぐに出ると、やけにコミカルな女の声だった。
「こんにちは!!折原臨也様ですね!!」
はぁ、と臨也はそのわけのわからない女に名前をきいた。彼女は自分が天使で、成仏しやがらない不届きな魂を成仏に導く者だといった。今からすぐに俺のマンションへこい、と女は半ば命令口調で言いつけて電話を一方的にきった。はて、と思った俺はなんだか面白そうだ、というそれだけの理由で住み慣れていた自分のマンションに訪れた。何もない一室に一人の童顔の女が座っている。おいおい冗談だろ、俺にこの手の知り合いはいない。
女はもう待ちきれん、といったように話し始めた。
「臨也さん、あなた成仏する気がないでしょう、あまつさえこの状況を楽しんでいらっしゃるでしょう。それがはっきりいって私はとっても気に食わないんですよ、早く成仏しましょうよ。」
彼女の話はこれからもなんだか要領を得ないので、かいつまんで説明すると、俺はたくさんいる成仏できない霊の中でももっとも悪質な奴の中に含まれるらしい。成仏できなくて、人に触れなくては自分の目的を達成できないと嘆いて普通の人がちゃんときっちり成仏する中で俺は全くその気がない。そして自分の未練が何かわかっていないのでそれを成し遂げてさっさと成仏する気もない。迷惑ですよ!!天使はいきなり怒った。俺は誤りながら、そういえば俺の未練ってなんだろう、と考えた。
「ああ、でも未練の対象にかかわることなんて実はできないんですよね。だから、あなたの未練がなんなのか知ることが実は成仏への近道だったりするんですけど。」
「どういうこと?」
「つまり、早くあきらめてあがってこいってことですよ。」
天使はくい、くい、と親指を空に向けて突き上げた。なるほど、そりゃ効果的な方法だ。接触できない対象は、そりゃあきらめるしかない。
「それじゃ俺はそれを思い出さないようにするよ。」
「きいぃっなんですかそれは!!!」
怒った。俺は一緒に笑ってやる。不思議な対話だった。泣いたり笑ったり怒ったり。
俺の態度を見て、天使はもういいですと言った。理解がはやくて助かるよ。俺は席をたった。そろそろ出ていったほうがいい。こういう子供はどちらかというと苦手だ。
俺は自分がいなくなった部屋をぐるっと見回した。随分殺風景になったな、とそれだけ思った。それだけの感慨だった。俺は以外に何にも執着せず生きていたのかもしれない。自分の住んでいた部屋にさえ。
執着といえばあの男くらい…。
それにしてもシズちゃんはなんで…。
俺はそれを考えかけて、はっとした。接触を断たれる人間?執着?未練?
考えられるのは一つの可能性だった。これはたぶん間違ってない。否定したいことこれ以上にないが。

天使はうなだれていた。俺の方を見ていなくてよかった。彼女に心を読む力なんてものがあったらどうしようと一瞬そんなことを考えたのだ。机の上につっぷした彼女の手の先に一つの封筒が握られている。いやな予感がした。予感がして、すぐに尋ねた。
「ねぇ、それは何?」
天使は「最後通告ですよ。」と投げやりに言った。
俺はその手紙を彼女の手からもぎとると、その封筒を乱暴に引き裂いて文面に目を通した。俺の顔色はそのときとても早く変わったかもしれない。
あと10年したら、魂は劣化して消えてしまう、俺は本当に、死ぬのか、と。

一瞬シズちゃんの顔が浮かんだ。そしたら、とても悲しくなって、かなしくなると会いたくなって、会えないという言葉を思い出して殺したいほど憎くなった。
ずっと、こんな不毛な繰り返ししかしてこなかったことが急に後悔されて、それが未練だってことについに気付いてしまった。
作品名:I'll come back soon.2 作家名:桜香湖