幸せな世界
自分の名を呼ぶいまだなれない姉の声に、彼は苦笑した
願っていたが、決して現実にはありえないと思っていた生活だ。
「分かったよ、姉さん。」
いまだ呼びなれない、姉さんという言葉でルーティを呼んだ。
頼まれたことは、大量に詰まれた食器洗いの手伝いだった。
自分達や孤児達の分も合わせるとかなりの量になる。
毎日これをやっているルーティは疲れないのだろうかと少し不安になる。
最初は黙々と皿を洗っているだけだったが、ふと、ルーティは口を開いた。
「なんか、夢……みたいね。こういうの?」
「……夢?」
「そう。 アンタがあたしの隣にいて、あたしのこと“姉さん”なんて呼んで……。」
「……姉さん。」
「あの日、……海底洞窟でアンタが死んで、もう二度とアンタと話すことも出来ないと思っていたのに。」
「……。」
「だからね、こんな幸せな生活、夢なんじゃないかと思って……また眠って眼が覚めたら、すべて夢幻で、皆消えちゃって、私はスタンやカイルや他の子達と毎日代わり映えしない毎日を過ごすのかなーって。」
「……僕も同じだ。」
ポツリとつぶやいたリオンの言葉にルーティは聞き返す。
「どうして?」
「……もしかしたら、これは幻の世界じゃないか、僕が勝手に作り出した、単なる夢じゃないかと……」
「夢なんかじゃないぞ!」
「「スタン!」」
リオンの言葉をさえぎり、いつの間にかその場にいたスタンがいった
「リオンも、俺も、ルーティも皆ここにいる。」
ぎゅっと二人を抱きしめ、18年前と変わらない笑顔で言った。
「そうだよ、ジューダスは何でも悪い方向に考えすぎだよ!」
いつの間にかカイルもこちらに来て3人にじゃれついた。
「カイルまで、お前達いつから。」
呆れ半分なリオンの言葉を「そんなことより」とカイルはさえぎって続けた。
「ジューダス、これはちゃんとした現実なんだから、夢だなんて思わないでよ! 俺たちとジューダスやリアラがいる世界。夢なんかじゃないから。」
「……そう、だな。」
あまりにも必死に言うカイルの姿に苦笑しながらリオンは答えた。
「何か、あんた達を見ていると重く考えていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきたわ。」
そんなことを言うルーティにスタンは「どういういみだよそれぇ~」と講義している。
そんな二人の光景を見ているといつの間にかリアラが顔を出してきた。
「どうしたの?騒がしいけど……?」
「ああ、それは……」
「なんでもない」
説明しようとするカイルの口をふさいでリオンが変わりに答えた。
「そう?」
訝し気に聞くリアラを尻目にリオンは思う。
―――これが、僕の世界、か……