【おお振り】月と地球
月は年に3.8km地球から離れていってるとどこかで聞いた。
それを聞いてまるで俺たちのようだと、
月と地球
「ねえ泉」
珍しくベッドを譲ってやったのに、
水谷は何をするでもなく恨めしそうにこっちを見ている。
「なんだよ」
「暇なんだけど!」
読んでいた漫画から目を外してちらりと表情を伺う。
不機嫌そうだ。
こういう水谷をからかうのは、至極、楽しい。
「俺は暇じゃないから」
また漫画に視点を戻すと不満げな声が上から降ってくる。
内容なんか頭に入ってこない。
「ねえ」
「うん」
「泉」
「うん」
「構ってよ」
もう一度見てみると、割と本気で言ってそうだった。
「構ってよ」
どうしたら機嫌が直るかなんて、
何度だってやってきたんだから。
「はいはい」
一定周期で離れたり近づいたりして。
「泉って構ってって言うとキスするよね」
「お前がキスすんの好きだから」
「…好きだけどさあ」
お返し。
ああまた結局こいつに流されるのか。
って思ったけどそれほど悔しいとか思ってなくて。
「泉って俺のことすきなの」
「べつに」
「俺も」
月は地球から一番近い天体かもしれないけど。
38万4000kmの距離は埋められない
作品名:【おお振り】月と地球 作家名:九条