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コンビニへ行こう! 前編

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不意に帝人から振られた話題に、とっさに反応できずに変な声が出た。日本語でおk、と心の中で冷静な自分が自分に突っ込みを入れる。
「えっと、僕は朝定食にしますけど、臨也さんは……?」
微妙に引きつりつつも、もう一度尋ねなおしてくれる帝人はやっぱり優しい、と臨也は思った。さすが俺の天使。
「えっ、と、あの、同じものを!」
「はい、じゃあ注文しちゃいますね」
ボタンを押して店員を呼ぶ帝人の姿は本当に神々しい。ドキドキと脈打つ心臓を押さえて、落ち着け自分と念じながら、臨也は大きく深呼吸をした。はっきり言ってさっきからとてつもなく挙動不審だ。
帝人はしかし、その挙動不審さを微笑ましい気持ちでみていた。
きっと、長年引きこもりで友達も居なくて家族意外と会話をしていなかったのに、今すごく頑張って他人とかかわりを持とうとしているんだろうな、とか、心の中で引きこもり少年の更生物語的なものを勝手に構築して応援するつもりになっている。
まさか今目の前で上手く言葉を見つけられずに右往左往している人間が、新宿の情報屋と悪名高い男だとは夢にも思わない……当たり前だが。
ところでその臨也、さっきから何度も何度も何かを言いかけているような気がするのだが、さて。
帝人は考えた。臨也のためを思うなら、自分から切り出せるまで待ってあげるべきだ。そしてちゃんと会話が成立したら褒めてあげなくては。でも、このままではいつまでたっても会話が成り立ちそうにない気がする。ここはひとまず促してあげるべきだろうか。
……完全に子供を見る親の目線に近い。所謂母性本能と言うものがもしも帝人に備わっているならば、今それが全力で作動しているに違いない。
帝人が心配そうに見守るその前で、視線に耐え切れず目をそらした臨也がぎこちなく、食前の珈琲に砂糖を……
「あの、臨也さん」
「ひゃい!」
びくぅっ!
飛び跳ねるようにして返事をした臨也に、帝人は。
「あの、大変申し上げにくいんですが、それはお冷だと思います」
「え?」
スプーン一杯のグラニュー糖をさらさらと加えた先にある液体は、珈琲ではなく水である。
「あああああ!?な、なんてこと!俺の水!?」
帝人の前でみっともないことをしている羞恥心が、破裂しそうなほどふくらんで臨也から冷静をことごとく奪っていく。軽いパニック状態の臨也に、帝人は、思わずクスリと小さく笑いを零した。
「っ!」
「あ、ごめんなさい、あの……臨也さんって、面白い人ですね」


面白い人。


それは一般的には褒め言葉なのかそうではないのかが結構微妙なラインの言葉なのだけれども。何しろ緊張して張り詰めていた臨也の琴線に触れるには十分だった。
わ、笑ってくれた……!
道化だろうがなんだろうが、それでいい。帝人が笑顔でこんな不審者に接してくれるというのなら、それで十分に幸せだ。
ヤバイ泣きそう。
じわりと涙が滲んだ目を乱暴に擦って、臨也は精一杯の勇気を振り絞る。このタイミングを逃したら、きっとこのままさようならで、そして明日からはまた普通に店員と客に逆戻りになってしまう。
根性見せろ、俺!


「っと、友達になってください!」


叫んだ声は、震えていた。
「え?」
あまりにも脈絡の無い言葉に、反応しきれず帝人が引きつる。しまった、また失敗だ、とは思うが、だからといってここで引くわけにも行かない。せっかくのなけなしの勇気、一度振り絞ったからには無駄にできない。
お付き合いを前提に、お友達になってください!
と本心では言いたいが、そんなことを言ったら普通の人間はまずドン引きだ。まずはお互いをよく知るために、ああもう、いい理由はないのか!



「と、友達いないんです!」



顔を真っ赤にして大声でそう怒鳴った臨也は、その日。
なんと、帝人のメールアドレスと携帯の番号を、その一言でゲットした。


作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野