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コンビニへ行こう! 前編

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きっと誘えば帝人のことだから、いやだとは言うまい。問題は臨也の勇気のほうだ。歩き去る二人の背中を見詰めて、臨也は一瞬迷ったが、さらにあとを追うことにした。
偶然通りかかって「やあ偶然だね!」と挨拶を交わすシュミレーションを何度か頭の中でしてみるのだが、どうしても上手いタイミングがわからない。それでももしかして、ずっとつけていればチャンスがあるかもしれないし。
そんなことを考えながら足音を殺して歩いている臨也に、


「いーざーやーくーん?」


なんて、低音ヴォイスが呼びかけたのは、そのときだった。ぴたりと動きを止めて、臨也はその声の主について即座に思い当たる。
ああなんでこんなときに!今日に限って!お前が現れるんだ!
臨也の心の中の悪態など知らぬかのように、その声はさらに続ける。
「こんなところで何していやがるんだぁ?」
かちりと音を立ててサングラスを胸ポケットにしまいこむ音さえも聞こえてきて、仕方が無いので臨也は振り返った。
「シズちゃん……」
平和島静雄である。
臨也の天敵、磁石でいうならS極とN極、動物で例えるなら犬と猿、蛇とマングースの。
「何でそうやってさあ、俺の邪魔ばっかりするのかなあ、シズちゃんは……!」
やり場の無い怒りがこみ上げる。俺の「休日偶然遭遇しちゃったよこれって運命だよね☆」大作戦を、邪魔する奴は!
豆腐の角に頭をぶつけるか!
馬に蹴られるか!
好きなほうを選んで死ねばいいのに!
「お前の都合なんざ知るかよ。っつーか、池袋に近づくなっつっただろうがぁ!」
言うと同時に道路標識を引っこ抜いたその馬鹿力に、臨也も遠慮なくナイフを取り出して構えた。この恨みは高くつくぞ、と臨也はふつふつと湧き上がる怒りをこらえずに殺気に変える。
「シズちゃんにはわかんないだろうけどねえ!」
パチン。
むき出しにしたナイフの刃が、きらりと太陽の光に輝く。
「俺の恋路を邪魔するシズちゃんなんて、うまい棒の食いすぎで死んじゃえばいいのに!」
「何わけわかんねえこと言ってんだお前はよぉ!」
「風船ガムの膨らませすぎで爆発しろ!」
「何で泣いてんだ!?気色悪ぃな!」
「恋する俺を、誰も止められるはずが無い!今日こそシズちゃん殺す!」
「テメエが死ね!」
どっかーん。
こうして、予定外の戦争の火蓋は切って落とされた。




「あれ?正臣、なんか向こうからすごい音がしたよ?」
「んあ?」
一方こちら、これから映画館に入ろうというところの正臣と帝人。
なにやら悲鳴が遠くから聞こえてきたような気がして立ち止まれば、どかんと巨大な金属音まで響いてきた。
びくっと肩をすくませる帝人に対し、正臣のほうはこの騒動に心当たりがある。
「平和島静雄じゃねえの?」
「ヘーワジマシズオ?」
「あれ、帝人知らないのか?」
もう池袋に出てきて数ヶ月。そろそろ一度くらいは遭遇しただろうと思っていたのだが、帝人は案外非日常と縁が無いらしい。なんと説明したらいいものか、と首をかしげて時計に目をやり、まだ上映開始まで十分ほど余裕があることを確認して、帝人を手招きする。
「向こうのほうだと思うんだけど……ああ、ほら、今自販機が飛んだ!」
「え……えええ!?」
指差された方向の、空に花火のごとく打ちあがる自動販売機。帝人は目を丸くして、「何アレ!?」と叫ぶ。その自販機が落下し、見えなくなったあたりでどっかーんと先ほどと同じような爆音が響いた。
「自販機がコンクリートにクラッシュする音だったわけだ」
「え?何、何なの今の?自販機が空を飛ぶなんて聞いたこと無いよ!?」
「だから、平和島静雄だよ。お前が池袋に来た初日に話しただろー?絶対に関わるなよって」
「えーっと……」
そういえばそんなことも聞いたような。いや、帝人はそのとき憧れの大都会に夢中で話半分だったけれども。決して正臣の話を聞いていなかったわけではないが、いや、聞いてませんでしたごめんなさい。
「なんだよ、覚えてないのかよ!」
「ごめん!」
「すげー怪力で、道路標識を振り回し自販機をブン投げるってんで、ついたあだ名は池袋の喧嘩人形。目印は、なんとバーテン服だ!危ないから気をつけろよな」
「へー……」
そんなすごい人も居るなんて、池袋さすがだ。帝人が素直に感心したそのとき、目の前の道をすさまじい勢いで駆けていく、黒い影が目に入った。
「あ」
思わず声をあげてしまったのは、その格好に見覚えがあったからだ。だってこの温かい日に黒コートなんて変な格好、臨也以外にしている人を見たことが無い。
「臨也さん!?」
思わず叫んだ帝人の声に、黒い影は一瞬びくっと停止したが、振り返って目を合わせたらおびえたような表情で息を飲み、そのまま走り去ってしまった。
あれ?何で!?
普段の臨也なら、帝人の姿を見つければ喜色満面の笑みで近づいてくるのに。
しかし首を傾げる帝人の視界を、バーテン服を身にまとった金髪の青年が、これまたすさまじい勢いで横切っていく。
「まぁてぇええええ!いーざぁあああやぁああ!!!」
「え?え?えええ!?」
ちょっと待って。なんで池袋の喧嘩人形って人に追われてるのあの人!?
ヘタレで引きこもりなのにあんな強そうな人相手じゃ話にならないよ!助けないと死んじゃうんじゃないの!?
混乱する帝人に、
「お前、臨也さんと知り合いなのか!?」
と正臣が驚いたように訪ねる。
いざやさん。
「え?知り合いも何も、あの人だよ!」
正臣だってコンビニで一度見かけたことがあるだろうに、何を今更。



「ストローさん」



現実は、小説よりも奇なり。
「は……はぁあああ!?」
叫んだ正臣の声が響き渡り、そういえばストローさんの名前を正臣に教えていなかったことに帝人が気づいたのは、その直後のことだった。



作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野