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コンビニへ行こう! 前編

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いきなりなんだよ、と思いつつ帝人を凝視した正臣に向けて、帝人はとても真面目な顔で繰り返した。
「今、いかにもリア充そうな外見の黒コートの男の人が、プリン買ってったんだけど、ストロー付けてくれって言うんだ」
「え、付けたのか?」
「つけたよ!聞き返してもストローでいいって言うんだもん!」
「えええ?」
なんじゃそりゃ、と正臣は眉を寄せて、腕組みをして何事か考えこむが、やがてすぐに手を横に振ってみせた。
「いや、ストローはないだろ、無理じゃないだろうけど、それでもプリンにストローは無い!」
「だ、だよねえ」
よかった、これは都会の常識とか変わった流行ではないようだ。しかし、だったらなんであの人はストローを持っていったのか。ただストローが欲しかっただけで、家に持ち帰るためだろうか。そうだと思いたい。
帝人はそれ以上考えるのを中断し、そうだよねあり得ないよね、と自分に言い聞かせる。
「いろんな人がいるんだね、都会って」
しみじみとそうつぶやいた帝人なのだった。
「あ、そんでタバコの補充!」
「このメモのとおりにお願い」
「おお!」
意気揚々とバックヤードに引っ込む正臣を見送り、帝人はもう一度さっきの男性を思い出してみた。黒髪、黒コートに黒い服、赤みのかかった目に整った顔立ち。そういえば声も低音で美声だった。何だあの人神様に愛されすぎじゃないのか。
しかし、そんな人がプリンかあ。
イケメンというのは得だ、何を買っていっても絵になる。甘いものを買えば可愛いと言われるのだろうなあ、羨ましい。


「よし、決めた。今日からあの人はストローさんと呼ぼう!」


次があるかどうかは分からないが、手ぶらだったことからみると近所の人である可能性が高い。どのくらいあとになるかわからないが、また再びやってきたときにプリンを買っていこうとしたら、その時は無言でストローをつけてやろう。
そう思えば未知との遭遇もそれなりに楽しい、と帝人は思うのだった。



その時はまだ。
それが壮大なるラブロマンスの始まりだなんて、考えても見なかったのである。



作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野