二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

コンビニへ行こう! 前編

INDEX|20ページ/20ページ|

前のページ
 

諦めて認める言葉を吐いた臨也に、眉を上げて、帝人は考えこむように腕を組んだ。
沈黙が降りて、重苦しい空気が臨也をますますいたたまれなくする。


「臨也さん、僕、あなたに言っておきたいことがあるんですけど」


しばしの沈黙の後、顔を上げた帝人が静かに切り出したその言葉に、臨也は息を飲んだ。冗談でなく、どきりと胸が高鳴ったのは、そのあまりに真剣な眼差しのせいだ。
ま、まさか、告白……?
あり得ないとは思うものの、しかし、こちらの予想をことごとく裏切ってくれるのが帝人という存在。だって「言っておきたいこと」なんて、愛の言葉以外に何がある。
「な、何かな!?」
声は期待を込めて上ずったが、そんなことは気にしていられない。身を乗り出すようにして帝人の方に上半身を乗り出した臨也に、帝人は若干驚いたように身を引き、それからゆっくりと引いた体を戻し、こほんと一つ咳払いをした。
そして、その可愛らしい唇、曰く。
「喧嘩は、良くないと思います」
「ですよね!」
ああやっぱりね!見られてたに決まってるよね、目が合ったもんね!
でももしかして記憶から忘れ去ってくれて、俺の正体なんかには気づかないでいてくれたらいいなって思うわけだよ、俺としては!
臨也は一瞬にして崩れ去った期待をしみじみとかみしめ、おそらくこれから繰り出されるであろう帝人のカウンターパンチに備えた。情報屋・折原臨也について、帝人はどんなふうに思うのか……この子は天使だから、きっと軽蔑するに違いない。そんな人だと思わなかったと言われてしまうだろうか、もう店に来るなと言われたらどうすればいいだろう。
びくびくと震える心を隠すように、臨也は視線を帝人からそらした。
とてもじゃないが、正面から見つめている勇気が出ない。
「あ、あのね。あいつとは高校からの腐れ縁で、だから、えっと」
それでも往生際悪く、どうにかして帝人に言い訳をしようとする臨也の言葉を、帝人は遮った。
「すごく悪いことをしているって本当なんですか?」
……ストレート、過ぎる。
嫌われた、これは嫌われたフラグ!
しかし「すごく悪いこと」って、何その表現!もうきっぱり言えばいいよ、どうせ嫌うなら止めをさしてくれ!臨也がそこまでネガティブに考えて、何も応えられないままでうつむくと、そんな様子に帝人は一つため息を漏らした。
「臨也さん、あのですね」
「な、何?」
何を言われるのだろう、これから。
生まれてきてこのかた、未だかつて無い程の緊張に手を握りしめた臨也に向けて、帝人は硬い声で告げた内容は。


「臨也さん、いいですか?現実は二次元とは違うんですよ?」


そんなこと、だった。
「……はい?」
え、何それ。
予想外の言葉過ぎて頭がついて行かないんですが。
呆けた顔を上げた臨也に向かって、帝人はぐっと胸をそらし、完全にお説教モードへ移行している。
「ですからね、どんなに悪ぶってみたところで、あなたがダーティーヒーローになれるわけじゃないんです。だから、そんな悪い噂を流しても無駄です」
「は、はあ?」
「大体、その対人スキルで闇社会で暗躍とか無理にもほどがありますよね。今ならまだ間に合います、妄想をやめましょう?悪い人になりきることで人とのかかわりを切ったところで、人生は他人と支え合わなくては生きていけないんですよ?そんなに人と関わるのが苦手なら、僕も協力しますから、在宅の仕事をさがして……」
「え、あの、まって」
なんだか多大な勘違いをされている気がする。
というか、確実にされている。
焦って帝人の言葉を遮った臨也に向けられるのは、帝人の温かいを通り越してぬるま湯の様な慈愛にあふれた眼差しである。いいんですよ分かってます、全部分かってますからね、とでも言うような。
「大体情報屋ってなんですか、情報屋って。スーパーのセール品情報でも売るんですか?」
「いえあの、」
「違うんですか?じゃあどんな情報を売るんですか、猫の貰い手とか?」
真顔で言う内容が!
いちいち可愛いなもう!
っていうか猫の貰い手を探してどうやって収入を得るんだよ!
どこからどう突っ込めばいいのかわからずに途方に暮れた臨也に、帝人はもう一度いいですか、と繰り返した。
「とにかく、もうあんな強い人に喧嘩売っちゃだめですよ!現実とアニメの世界は切り離して考えなくちゃ。それに平和島さんは悪の組織とかじゃないですし」
「い、いえあの、俺アニメとかは……」
「ゲームでも本でも同じです」
これぞまさしく、多大な誤解という物ではなかろうか。
臨也は心の中に吹き荒れる盛大な虚しさを、どうして慰めればいいのかわからずに顔をひきつらせる。確かに、彼の前では上手く話せない。態度もとてもおかしいと思う。けれども、いつの間に自分はニートのアニオタにされてしまっているのか。二次元と三次元の区別がつかないと思われているのか。
言ってない、そんなことは一言も言ってないよ帝人君……!
「あ、あのねえ帝人君、」
決死の覚悟で、誤解を解こうと顔を上げた臨也に、帝人はまっすぐに視線を合わせる。
その顔が、ふと曇って。


「そんなケガまでして……、僕、心配です」


きゅん。
臨也は臨也なので、昔から人に気遣われるということが余り無い。だからこんなにときめいてしまうのだろうか、それとも、相手が帝人だからなのか。
わからないけれども困ったように、そして本当に心配そうな表情をされると、弱い。激弱だ、もう弱点と言って過言ではないほどに。
「ご、ごめんなさい……」
その謝罪が。
帝人が臨也に言った言葉すべてを肯定するものだったとしても、それ以外に今、何が言えよう。
気をつけてくださいね、と優しく笑いながら臨也の怪我に触れたぬくもりに比べれば、ひきこもりのニートでアニオタと思われることなど、些事である……多分。
って言うか俺の目標は!
目指せ、素敵な臨也さんなはずなのに!
どんどん坂道を転がり落ちてないだろうか!?
「帝人君、あのね!」
せめて、自分とあいつは互角に戦えるのだ、ということだけは分かってもらいたくなくて張り上げた声は、「はい?」と首を傾げる帝人の仕草に言葉をなくし、そして。


「……お、お茶おかわりいる!?」
「いただきます」



恋する道化師の、受難は続く。


作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野