コンビニへ行こう! 前編
コンビニプリンとはいえ、生クリームの乗ったそのプリンは安価な割りに美味いと評判のものだ。事務所のキッチンからスプーンを出してそれを味わいながら、お花畑にでもいるようなふわふわした臨也の笑顔を横目でちらりと見て、波江はどうしようもなく笑いたかった。
だってそんな、たかが目が合ったくらいでこの世の春!みたいな顔をするなんて!あの折原臨也が!ありえなさ過ぎて笑えるわ!
だがまだ、ここでくじけさせるわけには行かない。臨也にはもっと笑いを提供してもらわねば困るのだ。
「で?あなたの天使のお名前はなんていうの?」
コンビニ店員ならば名札くらいはつけているだろうと思って問いかければ、臨也はもう一度椅子をくるりと回し、意気揚々と答える。
「竜ヶ峰君だよ!竜ヶ峰帝人君っていうらしいよ!」
「……」
竜ヶ峰「君」?
「……男なの?」
「え?何か問題でも?」
「…………ある意味あなたらしいわね。期待を裏切らないわ」
なんだホモか。とか突っ込んでもよかったが、まあそれはいい。
「名札にフルネームはないでしょう?調べたの?」
「俺は情報屋だからね!」
「で、何歳なの?」
「高校生だと思うけど……」
「そこは調べてないの!?」
「だ、だって、そこまで調べたらストーカーみたいじゃないか!俺はただ純粋に彼が好きなだけだから、そんなことできないよ!」
きゃっ!とでも言うように顔を手で覆った臨也に、波江はどう反応したらいいのか一瞬本気で迷った。フルネームはOKで年齢がNGな理由が分からない。っていうか、高校生とか本気か。普通に犯罪者なんじゃないのか、それは。
そして純粋に?
彼を?
好きなだけ、だと?
……面白いじゃないの!
「それで、最終目標はなんなの?」
「え?何が?」
「あなたまさか、顔を覚えてもらえたらそれで満足とでも言うつもり?」
尋ねた波江に、臨也はぽかんとしたあと何かに思い当たったようにはっとする。
「っか、考えてもいなかった!そうか、俺はどうすれば!」
……馬鹿だ。
波江はしまったあ!と頭を抱える臨也を哀れみの目で見つめた。これは馬鹿だ。恋はこの男をただの馬鹿にしてしまった。折原臨也ともあろうものが、ノープランだとか!
「はっきりしなさいよ、付き合いたいの!?」
「そ、そりゃ付き合えたら最高だけど、そんな、無理だろ?だって俺男だしあの子高校生だし、」
「じゃあ、見てるだけで満足なの?その子に彼女ができたらどうするの?」
「相手を殺して俺もし……なない!いや、そんなことしないよ!涙を呑んで見守るよ!?」
「本音が出たわね臨也。つまりあなたはその子を恋人にしたいんでしょう?」
畳み掛けるような押し問答に、口を滑らせた臨也の負けだ。
波江は腰に手を当てて姿勢を正すと、びしっと臨也を指差して高らかに命じた。
「ならばこれから毎週、土曜の朝はストローつけてもらってプリンを買って来なさい。そうすればいやでも相手は覚えるわ!」
かくして、参謀の命令どおりに。
臨也のラブアタック大作戦は、開始したのだった。
作品名:コンビニへ行こう! 前編 作家名:夏野