酔いどれユリフレ
「おかえり」
「……ただいま」
早かったな、と切り出す前に疲れたようなフレンの声がやけに近くで聞こえたと思ったら、背後から抱きすくめられていた。こんな風に甘えてくるなんて珍しすぎて、フレンに顔は見えていないのにユーリは動揺を悟られないよう何故か必死になってしまう。そうして無意味にクールぶっていると、フレンの加減なしの腕の力に耐えられず、べし、と軽くフレンの腕を叩いてしまった。けれど少し力が緩んだだけで、放してはくれなかった。嬉しいが、どうせなら正面から抱きしめたい。いや、現状でも嬉しいけど。仕方ない、としばらくフレンの好きにさせていると、フレンの唐突な謎の呟きにユーリは耳を疑った。
「お嫁さんにするなら、ユーリがいい」
口元がひくりと引きつる。フレンから漂うアルコール臭にはとっくに気がついていたが、妄言を言い出すほど酔うなんて滅多にないのにとユーリは首を捻る。
「こんなごつい嫁を欲しがるなんて、物好きだなお前」
ユーリの左肩に顔を埋めているフレンの髪に触れるとあからさまにびくりと揺れて、ぎゅう、とまた抱きしめる力が強まった。嬉しいけどやっぱりすごく苦しい。相反する拘束をなんとか解こうとフレンの腕を掴んだところで、背中から聞こえてきた呟きにユーリは動きを止めた。
「見合いを勧められたんだ」
「へぇ…」
先ほどの謎の発言の原因はそれかとユーリは納得して、断ったけど、と続いたフレンの言葉に密かに安堵した自分に気がつく。一瞬でも緊張していたらしく、ユーリは自嘲気味に口元だけで笑う。
「そ、か」
「……ユーリがいい、ユーリじゃなきゃ、嫌だ」
くぐもって聞こえる声は泣きそうで、堪らず震える声ごと抱きしめてやった。フレンの腕の力はいつの間にか緩んでいて、あっさりと解けた。
「放さねぇよ」
薄暗い己の胸の内に目を瞑ると、安心させるように背中に触れて、癖の強いフレンの髪もわしゃわしゃと撫でてやる。アルコールが多少入っているとはいえ、こんなに甘ったれなフレンは情事の最中以外だと本当に稀だった。いいものが見れたな、と腕の中のフレンをあやしながらついでのように赤い頬にキスをすると、肩を押されて咎めるような目で見上げられる。そこじゃない、と言われているようで、ユーリは不自然に視線を彷徨わせた。ほんのり染まった頬と薄く開いた唇なんて、反則すぎだろう。
「あー…それより、着替えてこいよ。コートとスーツ、皺になるぞ」
ここでこのまま事に及ぶのは簡単なのだが、ユーリの中で一応の自制がかかる。
「ユーリが脱がせて」
試されているのだろうか、さっきから。甘い誘惑にフレンの腰を抱いている手を強める。
「……大して酔ってねぇ癖に」
「酔ってるよ」
そう言うフレンの声はやけにはっきりとしていて、ユーリの判断を狂わせた。畳の上ですると背中が痛くなるから嫌だ、といつだったか怒ったくせに。
「俺は忠告したからな。後で文句言うなよ」
「うん」
本人の了承も取れたので早速フレンのコートを脱がせてその辺に放ると、フレンに自分で脱いだ上着をこれも、と託される。いつもならそんなことしたら目くじら立てて怒る所なのに。実は相当酔っているのかもしれない。
「ユーリ、はやく」
首に巻きついてくる腕にそこのところは結局どうでもよくなって、二人で傾れ込むようにユーリはフレンの身体を押し倒した。