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【モブ帝】終焉の鐘が高い空から時を告げ【性転換】

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唐突に、本当に唐突に、何もかもを投げ捨ててしまいたくなった。

自分を傷つけてしまいたかったし、
何もいらないと思ってしまったし、
逃げ出したくなってしまった。

そうなってからの行動は早かった。

いわゆる出会い系と言われる場所で男性と会う約束をした。

全てを捨ててしまいたかった。
処女、と言われる意味の分からない価値も自分という価値すらも。


とても暑い日だった。

待ち合わせ場所と言われたモニュメントの前で鏡を見た。
慣れないファンデーションが汗によって落ちようとしていたので、
つなぎとめようと脂取り紙を取り出し顔をぬぐい、再び顔を粉で包む。
まるで何かを守ろうとしているようだ、と思い、ぼんやりと鏡を見れば、
無表情で特に存在を強調しない顔がこちらを見つめていた。

そうして、男と会った。
ラブホテルというところにはじめて連れていかれた。

そこからの事の流れは早かった。
はじめてのことに戸惑っている私に、男は笑いながら緊張しているのか、と聞いてきた。
初めてだということは伝えていたから、とても優しく丁寧にしてくれた。
空調の効いた部屋で、ただ一人浅く呼吸をしていた。
痛みはあったが、気持ち良くもなかったし、何の感情も抱かなかった。
男はシャワーを浴びてから戻ってきた。

ぽつりぽつり、と、話をした。
互いの身元を明かすわけでもない会話ばかりを。
男は、ダラーズに入っているのだ、と誇らしそうに言った。
私が創始者のひとりです、なんて言ったらどうなるのだろうと思いながら、そうなんですか、とだけ返した。

それっきりだった。


外に出て、男と別れた。

ふと気になって再び鏡をのぞけば、ファンデーションが落ちかけた自分の顔があった。
守るものなどなくなってしまった、と言いたいのか、と鏡に向かって無言で問いかけた。
少しずつ崩れ落ちているそれは、まるで物語の中にある崩壊寸前の城のようだった。

そうだ、守るものなど何もないのだ。

痛みだけが足の間から伝わってきた。
何故かとても身軽になったような気がした。
少しだけ大幅で歩き、深呼吸をした。
日陰でも伝わってくる熱気が私の体の中を満たしていった。

逃げることなどできないのだ。
何も捨てることなどできないのだ。
それでも、少しだけ身軽と言えるような気がした。

それが、気のせいであることも。
幻を見ているだけであることも分かっていた。
大切だと思っているものはそれほどのものではなく。
いつかはなくしてしまうものだった。
これを後悔する日は来るのだろうか。



明日からはまた日常が始まる。
紀田くんと園原さんと会って、普通に笑いながらまたしゃべり遊ぶのだ。


もう男と会うことはなかった。
数回メールは来たが、無視をしていたらそれ以上は来なくなった。


ハンカチを取り出し、汗を拭う度に思う。
身軽になることなどできないのだ。
今まで私が生きてきた全てが私を縛っている。
ただ、それだけのことを。





終焉の鐘が高い空から時を告げ





11.03.28.