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不気味の谷

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「なぁ源王、俺って何考えてるか解らないかなあ」

窓から夕陽が差し込み、オレンジに背を焼かれた円堂が
ふいに顔を上げて訊ねてきた。
練習も終わり、殆どのメンバーが帰路についた今、
人数が増えたからと夏未に無理くり拡張された広い部室には
俺と円堂しかいない。
二人、作戦会議用の長い机に向かい合って、
迫る練習試合に向けての作戦の練り直しをしていた円堂は、
何を思ったのか丸い目を瞬かせもせずいきなり難しい問題を提示してきた。

確かに、思い当たる所がないわけではない。
…円堂守という男は、複雑な男だと思う。
くるくる良く変わる表情に大きな伸びの良い声、少しお調子者だけれど
熱血で一直線で、嘘のつけない彼は誰の眼から見ても「人格者」だ。
現に、円堂の後ろはいつでも誰かが追いかけていて、
彼が一声かければサッカー部は何処にいても全員集まる。
円堂は、まさに部員にとっての光なのだ。
しかし、その光がふと揺らいで翳る瞬間がある。
それはなんでもない日常に突然現れるもので、
同じクラスの仲のいいグループで昼食を取っている時だったり、
残ってボールを磨いている時だったり、
二人でいる時に俺にキスをしたそのすぐ後だったりする。
そういう時の円堂の目は必ずやや黒く淀んで、
星の注さない眼球は一体何処を見ているのか解らなくて猛烈に不安になる。
砂で出来た足場が風で崩されて、暗い底へ落ちていくような
内臓が冷えあがる感覚に支配されて、俺は息を飲む。
ほんの一瞬、僅か一秒にも満たないかもしれないその時間は
俺の足元を容易く浚っていくのだ。
それでも円堂は言う。…―どうしたんだ?ぼーっとしちゃって。
円堂自身は気づいているのかいないのか、その瞬間の後の円堂の笑顔は少しいびつだ。
限りなく人間に近い「なにか」が、プログラム通りに笑っているような
違和感に襲われながら俺はいつも答える。『なんでもないんだ。』

円堂はどこか、うすっぺらな印象がある。
皆に頼られ信頼される「円堂守」の姿を、俺は立体として捉えることが出来ない。
記号的で、絵のようだ。
近付いて肩口を捲れば、隠れた何かを目視してしまうのではないか。
帝国にいた頃はこんなことは感じなかった。
ただ、弱いはずの雷門に現れた才能のある熱血漢といった程度の認識だ。
それが雷門へ転校して、好きだと言われて、好きだと返して、
二人きりでいることが増えて、キスをするようになって、
円堂に組み敷かれるようになってから、俺は円堂に少しの恐怖を感じ始めていた。
あっさりとした言葉に置き換えれば、得体の知れない、ということだ。
円堂の身体の内に潜む何かを垣間見たときから、
俺は円堂の被る「笑顔の仮面」に気付いてしまったのかもしれない。

返答を待つように首を傾ぐ円堂に笑顔で答えてから、
「円堂ほど解りやすい奴なんていないだろ」と嘘をついた。
この感情を説明しても円堂には理解されないだろうし、
自分自身、このことを認めるのは嫌だった。

だってもう俺は円堂に頭が上がらないほどに惚れ込んでしまっていて、
どんな円堂だって、きっと受け止めてしまうから。
もしいつか彼の仮面が割れたとしても、
俺は自分のどろどろとした恋慕で自らの眼を潰してしまうのだ。
前が見えなくなった俺の手を引くのが本物の円堂ではなくなっても、
多分、俺は気付かない。


五時四十五分の鐘が鳴る。














作品名:不気味の谷 作家名:さまよい