二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

あなたは嘘をつく

INDEX|1ページ/1ページ|

 

「キスしようジョジョ」

教室棟から別の棟へ移る途中の木陰で、ディオが唐突にこう言った。
靴の具合が悪くて足を捻ったとか言って蹲り、心配した僕が数歩戻ってやったら、したり顔でこの始末だ。ディオはいつも唐突で傲慢である。

出会った当初に比べて随分と取っ付きやすくなったとは言え、僕は基本的にディオに対して畏怖と疑念と友情の入り混じった複雑な感情を抱いていた。
綺麗な物ほど触って形を確かめてみたくなるけれど、同時に、触った代償として何か悪い事があるんじゃないかと、いつも思う。それは、美術館で念入りに警備されている美術品に似ている。
珍しく美しい美術品は無条件に触りたくなるけれど、触った途端に警備の人に捕まって罰を受けるだろう。だから僕はいつも黙って、ただ少し離れた所から美術品を見ている。

ディオは僕にとって、正しくそんな感じの存在だった。

だから大 抵、何かしらのアクションはディオが起こした。彼にとって僕と言う存在は、話相手には成らずとも暇つぶしには丁度良かったんだろう。
お陰で小難しい法律の話はされないが、腹の立つような嫌味と嫌がらせしか受けない。僕は討論の相手にはならなかったが、彼の暇つぶしの良い玩具には成れた訳だ。
お陰でだいぶ気が長くなったとは言え、こうしてカラかわれるのを手放しに喜ぶ気には、到底なれない。

「キスだ、ジョジョ」

呆れて物も言えないまま立っていると、またディオが同じような事を言う。今度はさっきまでと違い、命令口調だった。
僕を見上げる表情は、決して鋭くは無く、むしろ笑みすら作っているのに。その唇から発せられるのは、明らかに上から物を言う時の言葉。
僕は頑なな子供のように、ゆっくり首を振る。


「早く行こう。次の授業に間に合わない」

「…キミは、足を挫いた怪我人を放っていくのか」

「悪いけど、嘘をつく怪我人は放っていくよ」

「嘘なものか。来て、見て、触ってみれば良い。ほら、こんなに…」

「……」

腫れているとでも言うのか、ディオは座りこんだ まま右脚をズって、僕の方に差し出す。ズボンの上から優しく足首を擦って、眉尻を下げて見せた。
これじゃあまるで、僕がディオを虐めているみたいだ。

仕方が無いのでゆっくり近づき、しゃがんで彼の足に手をかけようとする。足首を掴もうと体をグっと前屈みにさせた時には、僕とディオの唇は、もう一つに重なり合っていた。

「ンぐッ…」

一瞬何が起こったのか分からず、僕はただ目を瞬かせた。目の前にはディオの特徴的な耳のホクロが三つ並んでいて、つまり僕らは顔の角度を変えてディープキスをしていると言うことになる。
チュチュと音を立ててキスをするディオは、嫌じゃないのか、僕の頭を手で押さえている。僕はこんなに不愉快な気持ちになっているのに、ディオは目を瞑ってただ僕の咥内を舌で弄るだけだ。

やがて唇が離された時、僕は反射的に腕で唇を拭った。それは“汚い”とかそう言う事よりも、ディオに「何か」を奪われてしまった、と言う感覚に近い。
ディオだって好きな娘が居るだろうに、どうして僕にこんな事をするんだろう。

「…お人好しだな。金も貯まらないだろうよ」

今だ唇を擦 る僕にディオはそう言った。何気ない無表情で少しだけ目を細めると、そのまま立ち上がって先に行ってしまう。やはり足を挫いたと言うのは嘘のようだ。
自分からキスしろと言ったり、実際にしてきたくせに何て態度だ、と僕は内心で憤慨する。

けれど、もしディオがキスではなく、足を治療する金をよこせと言ってきたら、果たして僕はキッパリと断り切れただろうか。もし、さっきと同じように患部を擦って辛そうな顔をされたら、僕はなけなしの小遣いをディオの手の平に置いていってしまったのではないだろうか。
ディオはよく僕の事を「お人好しだけで飯は食えないぞ」と揶揄るけれど。

あぁ、きっとそうだ。

「ディオ、待ってよ」

姿勢正しく先を歩くディオを追いかけながら、僕は思った。
実はディオは僕のお人好しを、唇を奪う事で矯正しようとしてくれているんじゃないか、と。



作品名:あなたは嘘をつく 作家名:知花マオ