白雪姫
※
・ラムダが子供の姿で生活しています
アスベルが見守る中、リチャードはラムダが持ってきた『白雪姫』の一ページ目を開いた。
「じゃあ読むよ。
…“昔むかし、ある所に白雪姫と言う美しいお姫様が居ましたとさ”。おしまい」
「…、?」
「…え、ちょ、リチャード!?」
物語を知らないラムダは、とりあえず頷き、アスベルは反射的に言葉を投げる。
リチャードは苦笑して、開いたばかりの本を閉じた。
「他人の恋愛話ほど詰まらないものはないよ。見せ付けられているみたいで、悲しくなる。それにラムダには、もっと現実的な恋のカタチを見せてやった方が良いだろう?」
「現実的な恋のカタチ…?」
訝しんで顎を引くアスベルに、リチャードはニコリと爽やかに笑いかけた。
「つまり…キスで目覚めるのは“お姫様”ではなく、“王子様”と言う事…さ」
「なっ…!」
毎朝の習慣を引き合いに出され、アスベルは林檎のように赤面した。ラムダが、ご機嫌なリチャードと真っ赤なアスベルを見比べて、不思議そうな顔をしている。
「もう…話は終わりなのか…?」
ラムダが不満そうに本を指差して言うので、リチャードは首を振った。
「終わりじゃない。これから始まるんだよ。ねぇ、アスベル…?」
「…ッ、王子が“王子”にキスするなんて変だ…っ。それにリチャード、お前はもう王子じゃなく、国王じゃないかッ」
「おや、誰も“王子”が僕なんて言っていないよ」
「…う」
続きを教えろと騒ぐラムダを軽々と抱え上げ、リチャードはそわそわしているアスベルへと、穏やかな視線を送る。
昔話の主人公やヒロイン達が、永遠に幸せである保証は無いのだと、頭の片隅で理解しながら…。