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ラブレター

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「同性愛について、君はどう思う」





は!?
…と、鋭く反応してしまいそうになるのを、俺は一呼吸置いて懸命に耐えた。
ラントの自宅の執務室にて雑務の傍らリチャードと話をしていた俺にとって、この質問はあまりに衝撃的だ。

リチャードとは、それまで他愛の無い会話をしていた。
例えば花の事、天気の事、ヒューバートやソフィの事、あとは今朝の朝食の話もしただろうか。それらは本当に和やかな話題の種となって俺を楽しませてくれていたのに、今しがた投下された言葉は核爆弾にも等しい。

「…、どうしたんだ、突然」

いくら声は上げないながらも、声帯が掠れてしまうのは仕方の無い事だ。
それまで流れるように滑っていたペンも止まり、顔は自然とリチャードの方を向いてしまう。後から書類を見直せば、きっと黒いインクの沁みが出来ている事だろう。

リチャードは本棚にあるラントの歴史を書き綴った本片手に、こっちを見ようともしない。

「そんなに驚く事かな。
同性とキスしたりとか、セックスしたりとか、愛の言葉を囁き合うのって…君はどう思う、アスベル」

「…どう、と言われても…」

顔色一つ変えず、しなやかな手付きで一定毎にページを捲り続ける彼に、俺は頭を掻いた。何故いきなりこんな事を言わされなければならないのか…。
そもそも、どうしてリチャードがいきなりこんな質問をしてきたのか、その意図が分からない。

分かりたくもない。

「…俺としては、あまり良い気はしないな。愛や恋は自由だけど、同性って言うのはちょっと…。やっぱり偏見を持ってしまうし、非生産的だし、例えば俺とリチャードがセックスするだなんて、考えただけでも悪寒がするよ」

「そうかい」

俺の無難な意見に、リチャードはフっと口元だけで笑った。そして、それまで淀み無く動いていた手を止めると、そのままジっと文字の一点だけを見つめる。
いいや、本の上に滑る文字を見ているのではなく、もっと遠くの何かを見るような目だ。俺はイスに座りながら、リチャードの次の言葉を待つ。

時計の針が時を刻む音だけがして…その針が丁度一回りほどした時だろうか。リチャードが初めて俺の方を見た。

「アスベルは、僕の事をどう思ってる…?」

そう問いかけてくるリチャードは、真顔だった。いつもは多少の笑みで唇を彩っているのに、その片鱗すら見つけ出す事は出来ない。
金髪で覆われた頬は石造のように美しい輪郭を保ったまま、少しも震える事は無い。

それは酷く冷徹に俺の心を刺したが、俺は再び課せられた質問に、苦笑して答えた。

「本当にどうしたんだ、リチャード。好きだよ、好きに決まってるじゃないか」
肩を竦め、ヒョイと首を傾げて言ってやる。そう、俺がリチャードの事を嫌いなはずがない。
永遠の友情を誓いあい、あんなに困難な戦いを潜り抜けた仲じゃないか。

けれど俺の答えが不満だったのか、リチャードは本を棚に戻し踵を返す。

「嘘つきだね、君は…」

そう捨て台詞を残し、ドアの方へ向かうとノブに細い指をかけた。どうやら帰るつもりのようだ。
執務室のドアを開けた後、リチャードは一度だけ振りかえって、冷徹な表情のまま俺の机の横を指差す。
琥珀色の目を、憎しみにも似た色合いで細めながら…。

「今度は、原型が分からなくなるくらいに破いてから捨てて欲しいな…。もっとも、もう二度とその手の物が君に届く事も無いと思うけれど」

それだけ言って、些か乱暴に閉められる扉。廊下を闊歩する足音が遠のくのを確認してから、俺はそっと横目でゴミ箱の中を見た。
木製で出来た小さなゴミ箱は俺の方に口を向けていて、そこには一つだけゴミと呼べるかも分からないくらい綺麗な封筒が落ちていた。

最高級の上質な紙を使用し、珍しい切手の貼られた白い封筒。
その宛名は俺で、差出人は…。

「“もう二度と届く事は無い”…か」

呟いて手に取り、俺はそれを真っ二つに破ると、再びゴミ箱に捨てた。

「二度と届かない事を祈ろう…」


俺がこのような手紙を破り捨てるのは、もう11回目だった。




作品名:ラブレター 作家名:知花マオ