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女の子のお話

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いったいこれはどういうことだ。

 綱吉はがんがんと痛み出す頭を抱えながら、物珍しげに視線を漂わせながらも、一歩前を平然と歩く雲雀の背中を見つめた。
 何時だって一本の柱が立つようにまっすぐな背中は、今日も少しも揺るがない。
 その矜持を崩してやろうと連れて来た筈なのに、どうやらこの男は恥じらいというものを持ち合わせてはいなかったらしい。


 ここは並盛デパート5階。婦人服売り場の端っこにちょこんとお花畑を産み出している下着売り場。
 普段なら母と二人、もしくは女友達の幾人かと訪れるはずの場に、どういう訳か綱吉は雲雀と二人きりで訪れていた。
 こうなったそもそもの原因は綱吉が一緒に入りましょうと提案したからで、こんなお誘いをしたというのは数日前に京子からある話を聞かされたからであった。

 この前お兄ちゃんと一緒に並盛デパートに行ったんだけどね。下着が見たいって言ったらお兄ちゃん顔真っ赤にしちゃったの。首ぶんぶんふっちゃってね、ビックリしちゃった。
 でもお兄ちゃんて、そういうの全く意識しないと思ってたから、ちょっと安心したかな。
 恥ずかしがるお兄ちゃんなんだか可愛かったし。

 そう言ってくすくす笑う京子ちゃんこそが、誰よりも可愛いと綱吉は思った。それから全く失礼だけど、お兄さんにも照れたりとかってあるんだって、感心していたのだ。
 それでお馬鹿な綱吉は、俺も雲雀さんの照れたりかわいいとこ見たいなぁと、思ったりしてしまったのだ。


 だから綱吉は、風紀の物騒なことでいつも忙しい雲雀と久しぶりとなったデートの日。
 群れるな、と言って嫌がる雲雀を宥めつ賺しつしながら、なんとか並盛デパート5階の下着売り場まで連れて来た。

 ねえ、雲雀さん……て言うか彼氏のかわいい一面が見たいって思うのは悪いことじゃないよね? むしろ普通のことだよね?

 新しい下着で内からフレッシュマン★なんていうキャッチコピーと、絶対にフレッシュマンは身につけないピンクや黒のフリフリの下着(ブラウスから透けるって!)。
 そんなのがバーンと一面覆ってるのを前にどこかキョトンとした顔の雲雀(内心恥ずかしがってるに決まってる)に、綱吉は自分こそこれでもかと言うほど恥ずかしがりながら、雲雀さん、下着見てもいいですかと言って、こてんと首を傾げたのだ。

 ところが全くどうした事か。この後の雲雀の反応は、綱吉が予想したものと全く違っていた。
 一瞬目を見開いて、ぱちぱちと瞬きしたしたところまではいい。だがその後は、真っ赤になったり照れたりするどころか、へえと獰猛そうに微笑んで、じゃあ行くよと率先して下着売り場へと入って行ってしまったのだ。

 京子ちゃんのお兄さんですら恥ずかしがったのだから(失礼)、雲雀さんだって入れないに決まってると決めつけていた綱吉に、これは全くの予想外で。綱吉が入り口でぱくぱくと口を開けて動揺していると、一旦奥まで入った雲雀はわざわざ戻ってきて、早くしなよと手を繋いでくれるサービスまでついてきた。


 それから綱吉は、全く居心地が悪いこと仕方がなかった。
 こんな時ばっかり綱吉が逃げられないようにしっかり手を繋いで、雲雀は下着売り場の中をぐいぐいと進んで行く。
 たまに立ち止まったと思えば、君A65だっけ? とか、僕はそのピンクのセットのがいいと思うよ、なんて言ってくる。

 下着売り場の店員だって、ここが並盛なら雲雀恭弥を知らない筈がないから、何時もの営業トークで近づいてきたりもしない。
 ねえどれにするの? とどこかワクワクした様子で尋ねて来る雲雀に、綱吉は心の中で涙を流しながら、もう雲雀さんの好きにしてくださいと答えたのであった。
作品名:女の子のお話 作家名:桃沢りく