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昔話とうわの空

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ふとしたことから、テッドの話題になった。

彼とは普段、食事のことだとか滞在する土地のことだとか、季節の移り変わりに関することだとか、そういう当たり障りのない会話を多くする。
それで話題に不自由することはないし、どちらかと言うとお互いにお互いの過去を詮索するようなことはしない。
以前に気にならないのかと尋ねたところ、どうせ自分にはあまり想像が付かないような天上の生活とテッドとの楽しい惚気話だろうとシュレが不貞腐れたので、あまり話していない。
逆に彼の過去を聞いても、やはりシュレは曖昧に、のらりくらりと回答を避ける。いつも言動がふらふらしているから最初すぐそれとは気付かなかったが、今は明らかに彼が話したがっていないことは理解できた。
自分のことを尋ねない相手に、自分ばかりが聞くのもフェアではないという気もしていた。だからリディルはシュレに昔話を強請らない。勿論シュレは南方史の歩く生き字引、一般的な歴史に関することは尋ねもするのだが。
だから、テッドのことを二人で話すのは珍しかった。そして、何となくお互いにそわそわした心情になる。
シュレは。たぶん、テッドのことを好いていたんだろう、とリディルは思う。シュレの珍しい話に耳を傾けながら、彼が、自分にはあまり見せない情の篭もった話し方をするのをどこかうわの空で聞いている。聞きたいと思っていたことだったはずなのに、シュレの声が遠く感じる。そして200年以上前の群島へ想いを馳せる。
テッドは、あまり友好的ではなかったらしい。協力的ではあったけれど、まあ。そう言ってシュレが口を噤む。シュレとテッドがどんな風な関係を築いていたのか、どんな風に一緒に戦ったのか、リディルは聞かされたことはない。けれど、テッドとその名を呼ぶシュレの声音が優しいことに気付いたのは、何時からだったろう。
正直、テッドが羨ましかった。自分の知らない、感受性豊かなシュレの少年時代を知っている、テッドが。聞きたいと思っていたシュレの声は遠く、意識がどこか乖離する。

不意に、リディルは自分へと延ばされてきた腕で意識を戻した。びくりと揺れた身体に対し、伸びてきた腕は一瞬だけ動きを止め、確認するようにまたリディルの背へと寄せられる。身体への接触に対して身構えるのは身を守るための反射であり、拒絶ではない。それを知っているから腕を伸ばしてきたシュレは一呼吸の猶予を与え、それからリディルを強めに抱きこんだ。
「……、あの?」
「止めた」
明らかな不機嫌を込めて、ぼそりとシュレが言葉を落とす。微かな発声ではあったが、耳の傍に寄せられた彼の頭や密着した身体から充分言葉は伝わった。止めるというのは、テッドの話を、だろうか。迷いながら続きを待つリディルに反し、シュレは暫く言葉を切ってから、小さくた溜息を一つだけ吐いた。
「今日はずっとこうしてる。イヤだって言っても駄目だからね。決めた」
「はい?」
「よってお茶も淹れません。おやつも抜き。ご飯は……適当に作るけど。それ以外は駄目。今日のリディルは僕の抱き枕」
そしてまた強められた拘束に、リディルは困惑する。けして痛いとかいうものではないが、まあ、確かに身動きはとりづらい。たぶんソファへ行こうとか提案すれば動いてはくれるのだろうが。
「……なんで怒ってるの」
先程まで、機嫌よくテッドの話をしていた筈だ。それは彼にとって優しい記憶なのではなかったのだろうか。確かに少々上の空だったよな気がしなくもない。でもそれは、あまりに珍しく楽しそうにテッドの話をするシュレが悪い。
口調に不審を乗せて尋ねれば、シュレは少し腕の力を緩めてリディルの顔を除きこんだ。シュレの目が明らかな不興の色を浮かべ、また一つ溜息が吐かれる。
「テッドのこと考えてたでしょ」
リディルはぽかんとした。考えていたのはテッドとシュレのことだったので、これは是とも非とも言えぬ。一瞬回答に詰まった隙に、シュレは再びリディルを羽交い絞めにしてぎゅうぎゅう抱き込んだ。
「だから嫌なんだよ」
そうぽつりと、呟いて。







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[memo]どっちもどっちです。
作品名:昔話とうわの空 作家名:ゆきおみ