4月1日正午
は?
いきなりそう言い放った臨也の言葉に対して抱いた感想は、その一言だけだった。
いつもと変わらず裏の通りを歩いていたと思ったら、いきなりノミ蟲から声をかけられて。
少したった後でやっと臨也の言った言葉が理解できた俺は、とりあえずその辺にあった街灯を引っこ抜いて振り上げた。
顔に、明らかな困惑の色を浮かべながら。
「死ね。」
いまこいつ何つった。
「嫌だなあシズちゃん。そんなに睨んでさあ。それに死ねはひどいよ。」
ノミ蟲はいつもと変わらないむかつく笑顔を貼り付けながら、さっきとは打って変わったいつもどおりの言葉を吐いた。
「そうだよね、シズちゃんは俺のこと大ッッ嫌いだもんね。」
でもね、と臨也は笑みを消して言う。
「俺はシズちゃんのこと大好きなんだよ。本当だって。」
ちょっと待て、なに訳分かんねーこと言ってんだこいつ。
臨也の言葉に、俺は街灯を振り上げたまま固まってしまう。
真意を確かめようと臨也の表情を伺ってみるが、その真剣そうな表情からは何も読めない。
何考えてんだ、本気か?
「あはは、混乱してるねシズちゃん。」
混乱している俺を見て楽しそうに笑っているこいつがむかつく。
何なんだよ、何がしたいんだ。
理解できずにキレるタイミングも失ってしまった。
俺の混乱が頂点に達した頃で、臨也はいいこと教えてあげるよとさっきよりも笑みを深くした。
「今日ってさ、4月1日だよ?」
あ、
そうだった。
今日はエイプリルフール。
その単語だけで、俺はノミ蟲の意味不明な発言の理由が分かった。
「ってことでさっきのは全部嘘だよ、嘘。いやぁ、シズちゃんが簡単に引っかかってくれて本当に俺は嬉しいよ。嘘とはいえすごく嫌だったんだから。でもうん、シズちゃんの間抜けな顔見れたし。」
ぺらぺらと滑らかに出てくる言葉。
ふ ざ け や が っ て
こ の ノ ミ 蟲 が っ っ ! ! !
「よし、死ぬ覚悟はできてんだろうな?」
「嫌だなシズちゃん、そんなに怒ってる?」
「死ね。」
振り上げた形のまま固まっていた街灯を、臨也に向けていっきに振り下ろす。
臨也はそれをひょいと避けて路地の奥へと走り出した。
「待て臨也ぁぁあああ!!!!」
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本当に面白いなぁ、シズちゃんは。
俺はシズちゃんから全速力で逃げながらさっきのことを思い出した。
好きだ、って言っただけであんなにも動揺してくれるとは。
時計をちらりと見る。
針は12時6分を差していた。
そういえばエイプリルフールって12時の3分までなんだっけか。
俺が言ったのは、一体本当なのか嘘なのか―
真相は闇の中、だね。