「何かが起こりそうな夜は祈りを捧げて目を閉じなよ」(5)
三郎が話すのを聞いた3人は揃って驚いた顔をしている。
「三郎がそんな提案するなんてなあ」
「大体こういうのって企画勘ちゃんかハチなのに……」
「どうしたの三郎、何かあった?」
「お前らは俺をどう認識しているのかよく分かったよ」
秋祭りに5人で行こうという提案だった。つい去年か一昨年から行われるようになった祭りで、物事の中心にあまりなりたがらない三郎がこういった計画を立てようとしていることはそれはもう、少なくとも他の3人には意外過ぎることのように思えた。勘右衛門も間違いなく同意するだろう。それは三郎が学校での活動に活発でないことや普段から遊びの約束を自分から取り付けるタイプではないことに由来していたし、それを4人はよく知っている(その割に級長委員会には頻繁に顔を出していた理由はよく知らないし、三郎も語りたがらない)。
「去年は皆都合が合わなかったんだっけか? なら今年こそ行こうぜ!」
「俺はこの間大会も終わったし、暫く時間あるから行けると思う」
「僕も大丈夫だと思うけど、勘ちゃんの予定は大丈夫かな。最近忙しそうだし…」
雷蔵が少しだけ不安そうな顔をしたので、ここにはいない勘右衛門には同室の兵助に伝えてもらうよう頼むと、「男5人で祭りなんて暑苦しい、って勘ちゃん言いそうだなあ」と笑いながら兵助は言った。
「おーい、竹谷いるかー。伊賀崎が来てるぞー」
誰かがドアの方から呼んだので、八左ヱ門はわり、ちょっと行ってくると言い、そちらへ慌てて駆けて行った。何人かのざわめく声が聞こえたのは、伊賀崎がこの校舎ではあまり見ない中等部生なのと、変人ということで本人の知らないところで密かに有名になっているからだった。しかもこれが見た目がいいので、女子校舎なら黄色い声が溢れたことだろう。
「思えば、僕たち中等部3年とはあんまり関わりがないね」
「委員会にいないからな、仕方ないさ。それよりさ」
兵助の発言を区切りに、やがて別の話題に興じ始めた。
昼休みが終わる頃、自分のクラスへ戻る兵助を見送った雷蔵はどこかへ向かう三郎の背を追った。少しだけ走ったせいか息が切れている。窓ガラスが通す外の日差しと対照的に灯りの点いていない廊下は薄暗い。
「三郎」
声を掛けると振り向いたその顔はいつもの何食わぬ色をたたえていたので、雷蔵は何故だかほっとした。
「なんだ雷蔵。そんななっさけない顔して」
ともなく笑ってみせる三郎に、『なっさけない』なんて自分はどういう顔をしているのか、しかしそれさえも今の雷蔵には気にならなかった。
「色々、考えてたんだけど」
一息吐くようにして間を空けた後、雷蔵は続ける。
「前世でもお前たちと一緒にいたのなら、もしそれが本当なら、それは凄く嬉しいし、そこから現世で同じように一緒にいるんだとしたら、凄いことだと思う、うん、凄く。信じる信じないじゃなくて、なんていうか……ん? 待って待って、違うな、なんて言ったらいいんだろう、えっと………」
駄目だこれじゃ、前に言ったことと全く同じだ。
そしてやはり言葉に詰まったところで、三郎が今度は声をあげて笑ったので、雷蔵はつい驚いて目を見開いた。
「雷蔵は、相変わらずだな」
照れ臭そうにそう言って三郎が言葉を結んだ瞬間、午後の授業の始まりの予鈴が鳴った。うお急がねえと、と三郎が呟く。
「雷蔵も行くのか?」
「え?」
「トイレ」
ただでさえ笑い出した三郎にポカンとしていたところに、それを示す青いマークを指を指してそんなことを言われたので、雷蔵は「あ、う、うん、行く」とついどもって答えることになってしまい、それをまた三郎が笑った。今日はよく笑うなあとは、雷蔵が三郎を見てただ思ったことだった。
作品名:「何かが起こりそうな夜は祈りを捧げて目を閉じなよ」(5) 作家名:若井