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隣はわたしのもの

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静雄から盲目的に愛されているという自覚はあった。俺も静雄のことは好きだし、同棲してるみたいな状態でずっと一緒にいても飽きないし、大切にしてくれる。楽しいし心地いい。でもそれだけじゃ俺は物足りなかった。静雄から一途な愛を注がれているにもかかわらず、俺は男女構わずしょっちゅう色んな奴と寝て、遊んでいた。
 キスマークだったり、女物の私物が上着のポケットに入れっぱなしにしてあったり、そんなことで浮気はすぐにばれる。それでも静雄は怒るだけで、俺を殴ったりはしない。だから俺はその度に泣いて縋って謝る。お願い静雄さん捨てないで、と懇願する。そうすると、静雄は折れて、もう二度としないって約束するか、と言う。俺はイエスの返事をして、その夜抱き合って眠る。性懲りもなくそんなことを繰り返していた。

 ある日の晩、静雄が仕事先から電話を掛けてきた。今夜は帰りが遅くなるから、先にメシを食って寝ていろとのことだった。俺はしめたとばかりに、この前ナンパしたばかりの女の子を、静雄のアパートに連れ込んだ。アホみたいにセックスしまくったら、外が真っ暗になるぐらいの頃にはさすがに疲れて、ベッドでふたり枕を並べて寝ていた。
 心地いい気だるさと眠気でうとうとしていたが、なにか物音はしたなあという意識はあった。すると不意に隣で寝ていた彼女は「きゃっ」と動揺した声をあげて、飛び起きた。
 なにかと思って俺も上半身を起こすと、目の前には静雄が立っている。時間はまだ午後九時を過ぎたばかりだっていうのに。
「……なにやってんだよ」
 女の子は慌てて服を着て、アパートを飛び出した。今までにない重たく息苦しい空気が部屋にのしかかっている。静雄の声色はとても低かった。
「ごめんなさい」
 ああ、これはさすがに殴られるなあと思って身を縮ませていたら、はあ、とあきらめたような静雄の溜息が漏れた。
「もう、いい。さすがにもう疲れたわ。ここ、出てってくれ」
「……えっ」
「今すぐ出ていけって言ってんだよ!」
 声を荒げた後、静雄はその場に座り込んだ。俺は衝撃で胸が震えて唖然としたが、服を着て、素早く手荷物をまとめた。
「すみませんでした」
 俺は静雄の背中に向かって頭をさげて、アパートを後にした。もしかして、今夜は遅くなるというのは嘘だったのかもしれない。俺が誰かを連れ込んでいやしないか、確かめるためだったのかもしれない。疑われても仕方ないことを散々やってきたんだから、そんなことをされても俺はなにも言える訳がなかった。

 とりあえずその晩はおとなしく自宅へ帰った。あくる日からはなんだか自暴自棄になって、関係のあった女の子や男の家に泊まり込み、毎夜転々として遊び呆けた。でも色んな奴とセックスすればするほど虚しくなってきて、静雄の体温や手のひらの感触を思い出して、ひとりになると自ずと涙が出てくる。どうしたら、許してくれるのかな。もう合わせる顔なんてない。どうやって伝えたらいいんだろう。
 とにかくこのままじゃ駄目だ、ちゃんともう一度謝るだけでもと思って、アパートを出て行った日以来初めて静雄の携帯に電話を掛けた。でも、何度コールを鳴らしても静雄は出てくれず、留守番センターに転送された。当たり前か。もう俺たちは終わったんだ、静雄は俺を許すつもりなんて毛頭ないんだろう。そう思うと胸が張り裂けそうで、痛くて苦しかった。駄目もとでメールを一通だけ送ってみたが、勿論返事なんかいつまで経っても来なかった。


 それから一ヶ月ぐらいは経っただろうか。バイトの帰り道で、突然静雄から携帯に着信があった。俺はすぐさま電話口に出た。
「出てけなんて言って、悪かった。落ち着いてよく考えたけど、やっぱ俺はお前がいないと駄目だ。……戻ってきてくれねえか」
 静雄のその優しい声が夢なんじゃないかと思った。それと同時に俺はほくそ笑んだ。やっぱり静雄には俺しかいない。この人は俺の思うまま、もはや言いなりだ。また存分に甘やかされ可愛がられる日々が戻り、あの生温い生活に浸かれるのかと思うと、腹の底の辺りから笑いが込みあげてくる。
 静雄のアパートに戻ったら、抱きついて、寂しかったよって甘えてあげよう。まるでこれから一生静雄のことだけを愛すみたいに、色んな奴と寝たこの身体で、静雄と抱き合おう。どうしようもない静雄とどうしようもない俺の最低な毎日は、まるで終わりのない螺旋階段みたいに、こうしてなん度だって繰り返されてしまうのだ。それはもはや必然で、麻薬みたいな中毒性を持って、俺たちを蝕み続ける。
作品名:隣はわたしのもの 作家名:ボンタン