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囁きに混ぜておくれ

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年に一度の正月にしか会わないような親族が続々と集合する親の実家では、訪れる年明け毎によく、頭を隠しているのに尾は隠し損ねているような不思議に遭遇したものであった。
大人達が揃って己に留守の番を頼み出掛け、ふと静寂が家を包む折りにて独り言を粒程も口にせずにいれば。時を経てするようになった家鳴りとも明らかに異なる声がするのである。さながら同じ年の頃の少年らが目論む悪い企みを、額を突き合わせつつ相談しているかのようなそれ。
普段は静か極まりないのにやれこの時期は騒々しいだの、いやいや悪戯を仕掛けるには都合がよいし餅や雑煮や甘酒をつまみ食いするのも心踊ろうぞ、などと膨らむ話題は尽きない。
たのしく耳を傾けていたのだが、機嫌が右肩下がりの怠けた暖房による寒さに勝てずくしゃみを一つこさえてしまった。一斉に止む声達。今までどうにか上手く音を立てずにいたのだが、初めて気付かれてしまった。ならばこの際此方から話掛けてみようか。しかして検討する暇もなく、向こうはといえば本当に聴こえていたのかと、唇をすぼめて呟やいたような声が交わされる。
俺が確かめるよ、そんな一声がした。青葉やめとけよ、といった制止もお構いなしに軽い音ののち、背後にごく薄い気配が現れた。先手必勝とばかりに腹を括って振り返れば、鼻先が触れそうな近くにあどけない造りで意表を突っつかれたという顔したこが居るではないか。試しに相手の頬を人差し指の先でつつく。触れることが出来た。ぬくい。ゆっくり一拍子経過し、思わずという体で飛び退かれる。好奇心と警戒心をブレンドしたみたいな反応だと思った。
動作にぱちくりと瞬いたら眼前の不思議は置き土産なく姿を隠しており、車を車庫に納め帰宅しようとする大人達の話し声がして、今年の不思議はこれにてお終いかと残念に思う。来年はどうだろうか、これっきりの縁にならなければよいのだが。
だけれども、存外それは早合点であったのだ。





着いて来た座敷童の一人である青葉くんは、己が引っ付いた者の二人暮らし先にくらりと眩暈を覚えたらしく、今にこのおんぼろアパート生活から抜け出させてみせましょうと、頬を薔薇色に染め上げ意気込んでいる。
その内に彼の仲間も到着しそうであったので、大層賑やかになるのだろうなとホームシックも忘却の彼方にしてそう思った。
作品名:囁きに混ぜておくれ 作家名:じゃく