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Turn of my life

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大都市池袋。煩雑とした町の中でも喧騒が届かない静かな住宅街。そこに位置する小さめの公園。帝人さんはいつもそこで絵を描いている。そして、学校の帰りにその公園により、帝人さんが絵を描いているところを見ていたり、帝人さんと雑談したりするのが最近の俺の日課だった。

 今日も帝人さんは花壇に近いベンチに腰掛け、立てかけたキャンパスに色を乗せていた。集中しているせいか俺が来たことにはまだ気付いていない。
 作業の邪魔にならないよう、ゆっくり近づく。だけど、ある程度の距離まで来たら立ち止まる。以前近づきすぎてしまって彼を驚かせ、手元を狂わせてしまったから。その時はこんなことはミスの内にも入らないと笑っていたが、それ以来俺は公園に来たら少し離れた位置で帝人さんが気付いてくれるのを待つことにしている。
 とはいっても、風景画を描いている帝人さんは、辺りの景色を確認するために度々顔を上げるから、延々と待たされることはない。
「あ、静雄君。」
 案の定、今日もすぐに俺の存在に気づいてくれた。
「またそんなところに立って……。ほら、こっち来なよ。」
 そうやって誘われて、初めて俺は彼の隣に座ることができるのだ。

「よく見ると今日もボロボロだね。」
 話の区切れにポツリと帝人さんが言葉を溢す。
 ボロボロというのは、俺の制服の事だろう。毎日毎日臨也の野郎が何かを仕掛けてくるから俺はその度に力を振るう。そしてその結果学校、果ては池袋の町が荒れる。俺の制服や俺自身――はどうでもいいが――もボロボロになる。
 いい加減この負の連鎖をなんとかしたいが、スイッチを入れればお湯が湧く瞬間湯沸かし機のような俺がどうにかできるものではなく、臨也が止めるまで止まらないのが現状だ。嫌になるのと同時に情けなくなる。
 こうして俺が自己嫌悪に陥るのもいつもの事だ。
 いつもなら、こうして帝人さんと話しているだけでささくれ立った心も元に戻るのに、今日はどうにもそうはいかない。それを察したから帝人さんも言葉を投げかけたのだろう。
 理由は分かってる。臨也だ。
 今日は直接臨也とやり合った。その時に突き刺さった悪意がずっと胸に突き刺さって残っている。
「………俺は、ここに居ても良いんでしょうか?」
 帝人さんが気遣ってくれてから大分経って俺はそんなことを聞いてみた。しょうもないことだ。そんなことは分かってる。でも聞かずには居られなかった。
 帝人さんはちょうど黄色の絵の具を絵筆に乗せているところだった。キャンバスの下の方でタンポポが気持ちよさ気に風にそよいでいる。
「俺はこんなんだから、何でもかんでもすぐぶっ壊しちまうし、挑発されりゃ乗っちまう。それで気が付いたら一人で、良くしてくれた奴にだって終いには暴力振るっちまう。」
 一度零れたが最後、堤防が決壊したかのように後から後から思いが噴き出す。
「分かってんだ。俺が化け物だって言うことくらい。あんな奴に言われなくたって。壊すことしかできないことくらい。」
 そう、俺だって分かってる。
「だから――」
「こんなものかな。」
 爆発した思いは最後まで出しきる前に帝人さんの素っ頓狂な、まるで見当違いな、予想だにしなかった応えで遮られた。
 帝人さんは満足気に自分のキャンバスと、目の前の景色を頻りに見比べていた。
「ね?結構良い感じだと思わない?」
 そう言って指差すのはキャンバスの下の方にひっそりと、しかし力強く咲いているタンポポだった。
 なんだか脱力しながら、ええ、まあと曖昧な同意を返して項垂れる。
「話聞いてました?」
 ここで聞いてないと返されたら…いや、想像するのは止めよう。ベンチが酷いことになりそうだ。
 しかし、帝人さんはチラリと俺を一目見ると、聞いてたよと肯定した。そして、今度は赤色の花壇を描く。
「下らない。」
 放たれた音の意味を正確に理解することができなくて、俺は目を瞠る。
「下らないよ、静雄君。
 君は君を理解しない一部の人間の言葉から何を分かったって言うの?まあ、それも君の人間性の一部ではあるのかもしれないけど、それはあくまでも一部にしか過ぎない。
 そして君は良く“壊す”とか“暴力”とか言うけど、僕はしたくてしているわけじゃないことを知ってる。だからと言って開き直るのも良いことではないけど、君の根本は信用できる。」
 帝人さんは作業する手を止めずに淡々と諭してくる。それは、時折俺を褒めるものであったりするものだから、慣れてない身としては恥ずかしい。
「そもそも君がここに居ていいか悪いかの判断を僕ができると思う?仮に僕が駄目だって言ったらどうするつもりだったの?」
 どうするつもりと聞かれてもそんなこと全然考えてなかったから答えようがない。言葉に窮する俺の気配に帝人さんは苦笑する。
「大事なのはね、居てもいいか悪いかではなくて、居たいか居たくないかだと僕は思う。人間は自分の枠の中でしか物事を見れないから、結局判断はその人自身の価値観によると思うんだよね。
 うん、ちょっとカッコつけた言い方したけど、要は人間は自分が一番って話。あれ?なんか嫌な話になってる?」
 そうして帝人さんは首を傾げてちょっと考えてからまあいいやとかわいく笑った。それから、絵筆を水の入った小さなバケツのようなものに突っ込むと、俺に視線を合わせた。
「ねえ、静雄君。僕は静雄君と一緒に居たいよ。
 静雄君はここに居たい?」
 真っ直ぐと俺を見据える瞳は澄んでいて、この人が自分のことしか考えてないなんて嘘だと思った。
「ここに……居たい…!」
 途中で詰まってしまったけども、帝人さんはそんなことは欠片も気にしない。
「うん、そっか。よかった。」
 そうやって笑って俺をそのまま受け止めてくれるから、俺はあなたの隣に居るのが心地よくてたまらないのだ。

作品名:Turn of my life 作家名:烏賊