Turn of my life
蛇足だよ☆注意
「はい。」
…………え?
突如差し出された絵筆に一瞬絶句する。
「……えっと…え?帝人さん?」
意味が分からないんスけど?
「静雄君も何か描いてみると良いよ。」
それは俺にもここで絵を描けと?
「えっと、でも俺紙とか何にも持ってないし。」
「いやいや、ここに。」
トントンと指差したのは今さっきまで帝人さんがせっせと丹精込めて創り上げていた作品。
「ちょっ!!え!?何言ってるんスか!?
俺絵の才能とか全然なくて!!」
「別に良いよ。
風景画だけど、そのまま写さなきゃダメってことはないんだから。」
それなら写真で十分でしょ?ってそういう問題じゃねえええ!!
「大丈夫大丈夫。ほら、ピカソを思い出して御覧?
ね?できるような気になってきたでしょ?」
「なるか!」
思わず素で返してしまい、慌てて謝罪する。帝人さんはクスクス笑っていいよと赦してくれたが、絵筆はまだ差し出されたままだ。
「えっと、あの…俺なんかが手を出したら折角の帝人さんの絵が。」
「だから、いいんだって。
静雄君の気持ちをこのキャンバスの中に表してくれるだけで。大体、この絵もそんなに凄いものじゃないんだ。」
俺に取ってみたら、細かく木とかの葉っぱがちゃんと描かれててすげえと思うんだけどな。
「あ、でもタンポポは潰さないでね?これ結構気に入ってるんだ。それ以外ならどこに何かいても良いよ。」
勝手に許可を出して無理やり俺に筆を握らせる。
どこに何を描いてもいいと言われても、少しでも俺が手を触れれば途端にこの繊細な世界が壊れてしまうようで怖い。
だけど絵筆に続いて、パレットを突きだす帝人さんの笑顔も容赦がなかった。
俺は覚悟を決めて帝人さんがさっきまで使ってた赤を筆につけ、空に一筋の線を引く。そして次は緑、その次は黄色、紫、青、と順々に色の線を足していく。順番なんて分からないからでたらめだ。色の種類もあやふやだったりする。
そうして出来上がったのは、何とも不格好な虹だった。
「へえ。」
帝人さんが声を上げる。
幻滅しただろうか?落胆しただろうか?
「静雄君らしいね。」
変わらない笑顔の中に、嫌悪はなかったが、やっぱり俺が台無しにしてしまったことに後悔が生まれる。
「あの、やっぱりこれ潰してください。」
「え?何で?」
「何で、って…。こんなん、帝人さんの絵に会わない。すっげえ、浮いてる…。」
技術も何もないから、丁寧なタッチの周りと比べるとその虹はとても違和感があった。
帝人さんは、うーんと唸ると。
「じゃあ、浮かなければ残しておいてもいいんだよね?」
と言うと、俺の手から絵筆を抜き取り、端っこや、色の境目等に何か工夫をして――何をしたのかは全然分からなかった――自然な虹が出来上がった。
「これでいい?」
「すっげえ。俺が描いたのより全然うめえ。」
「何言ってるの?これは君が描いた虹だよ。僕は修正しただけ。
ね?君だってこれだけの綺麗なものを生み出せるんだからもっと胸を張ったっていいんだよ。」
ああ、俺はこの人に救われてばかりだ。
溢れそうになる涙を堪えて、俺は俺の描いた虹を只管眺め続けた。
作品名:Turn of my life 作家名:烏賊