ぐらにる 流れ あいらぶ?
るわけではない。というのも、エアチケットを取るのは、手紙を送ってからだからだ。休
みの申請は、今のところ、すんなりと通るのだが、さすがに時間までは計れない。
・・・・まあ、どうにか、真夜中までには到着できるか・・・・・
ちょっと、出かける間際に、バタバタした。今回は、協力者と別行動だから、携帯端末
は、手元に置こうとしたら、ちょっと変わった同僚が、朗らかに笑いつつ、俺から、それ
を取り上げた。
「これについては、気にしないでいいですよ。・・・・ゆっくりしてきてくださいね。」
「え? ・・・あの・・・アレルヤ? 」
「なんとなくわかりました。ティエリアには知られるとまずいですもんね。」
「いや、それは。」
「四の五のぬかさずに、エロいことしてこいって言ってんだよっっ。」
いきなり、人格が入れ替わるのは、いつものことだが、さすがに、びっくりした。バレ
ないために、刹那が、そういう関係だと言い張ったのに、バレている。
「刹那か? 」
「バッカっっ、ちげぇーよっっ。 おまえらがやってないことなんて、バレバレだってー
のっっ。なんでもいいから、行け。」
待機用の部屋から蹴り出されて、そのまま、空港へ向った。アレルヤも、あの時、監視
していたのだから、それについては知っているだろう。
・・・まあ、無理もないよな・・・・
刹那といちゃいちゃしているなんてことは、やっぱりないわけで、せいぜいが、ふざけ
て俺が、刹那に抱きついているぐらいことだ。そういう関係なら、纏う空気も変わるだろ
う。そんな色気が、あの黒子猫にあるわけがない。相手が拙い事も判っていて、それでも
、協力してくれるのだから、有難いことだとは思う。
・
辿り着いた部屋に、主がいるのかまでは分からない。いなくても、まあ、ここだと、ぐ
っすり眠れるので、とりあえず寝ようと、合鍵でドアを開けた。扉を開いたら、いきなり
抱き締められた。
「おい。」
「ようやく、ご帰還か? 姫。」
「いや、ここは、俺んちじゃねぇーだろ。」
「会いたかった。」
「・・・ああ・・・・」
「この幸運は、まさに運命だ。」
「大袈裟なんだよ、あんたは。」
抱き合う体温で、ほっと気が抜ける。いつもより熱烈に歓迎されて、居間へ案内された
。そこには、飲みかけのグラスと新しいグラスが置かれている。しかし、だ。制服は、床
に脱ぎ散らかされているし、その隣りに、どういうわけか、カサブランカの盛大な花束が
放置されている。
「ちょっちょっと待て。・・・・よく、こんなとこで飲んでられるな? 」
カサブランカというのは、相当、匂いがきつい代物だ。居間じゅうに、その薫りが充満
していて、少し息苦しい。それに、明日も着るであろう制服の上着やパンツなんてものを
、ちゃんと吊るしておけ、と、言いたい。
抱きついて離れない彼を、無理に引き剥がして、とりあえず、空調を強くして、制服を
クローゼットに片付けた。
「つまみでも作ろうか? 」
「それは、後でいいから、姫。ひとつだけ、お願いがあるんだ。・・・・どうか、聞き届
けてもらえまいか? 」
「なんだ? とりあえず言ってみろ。」
居間のソファに座らされて、正面から視線を合わせてくると、彼は、俺の手を取って、
皮手袋を脱がせて、そこに口付けた。
「もすぐ終わるんだが、本日、私は生誕した。」
「い? 誕生日か? 」
「ああ、それで、姫から是非とも贈って欲しい言葉がある。それだけでいいから、お願い
できないだろうか? 」
・・・・なんとなく、・・・・・なんとなく予想はついた。実は、俺から言ったことが
ない言葉がある。いつも、彼は、そう告げるのだが、それだけは言わないでいた言葉だ。
それを告げると、たぶん、俺も、この関係を認めることになるから、敢えて告げなかった
からだ。いつか、戦場で会うだろう相手に、それを認めたら、彼が気付いたときに傷つき
そうだからだった。
「・・・・言ってみろ・・・・・」
「きみが照れ屋だということは、充分、承知している。だが、ひとつだけ聞きたいんだ。
・・・どうか、私に、『愛している』 と、告げて欲しい。」
ああ、やっぱり、と、俺は、内心で頷いた。
・・・でも、それはなあー・・・・・
どうしても言えない。面と向かって真剣に言うには、これほど恥ずかしい台詞もない。
戯れに伝えるには楽しい言葉だし、俺だって、一夜の相手になら、気障ったらしくキメる
ことがある。だから、余計に言えない。
「姫、私は、それを贈られるに相応しくないだろうか。」
「あ、いや、そういうわけじゃ・・・・」
真剣に縋るような目で見られたら、何も言えなくなる。仕方がない、と、少し苦笑する
。どうにも、この目に弱い。
「明日には忘れてくれるなら。」
「忘れる。」
「・・・・あんたの褥は、俺には心地良いよ、グラハム・・・・」
それを告げて、それから、抱き締めて、耳元でこっそりと、その言葉を囁いた。明日に
は、何事もなく、いつものように、何も告げない態度に戻る。一度っきりの告白は、思っ
たより強烈に俺を照れさせた。だというのに、彼は、それから何度も何度も、同じ言葉を
俺に囁いて抱き締める。
「・・・姫・・・今までで一番嬉しい贈り物だ。」
心から喜んでいる彼が、とても愛しいと思う。そんな些細なことで、これだけ喜ぶなん
て、なんてお手軽なんだろう。
「今夜は、サービスするぜ? 」
「そういうプレゼントは却下だ。慎みを持ちたまえ、姫。」
「はははは・・・・慎みねぇー。なら、何にもしないで、清らかに眠ろうか? 」
「そこまではしなくていい。・・・・少し飲まないか? シャンペンを冷やしているんだ
。友人が、姫と味わってくれ、と、プレゼントしてくれた。」
「・・うん・・・喉が渇いたな。」
時計は、すでに、真夜中を過ぎようとしている。慌てて、シャンペンを用意して、グラ
スをカチンと合わせたら、とうとう真夜中を過ぎてしまった。
作品名:ぐらにる 流れ あいらぶ? 作家名:篠義