土方十四郎の恋愛事情 2
------俺の勘違いだと良いんだが。
沖田は土方の部屋の前で、肩を上下させていた。
昔から、悪い予感というのは、皮肉だが
良く当たる方だった。
------違う、違う、違う・・・。
さっきから頭の隅で流れる映像を消し去るように、
沖田は首を振る。
確かめれば直ぐに分かる事なのに、
俺は何故か戸を開けることが出来なかった。
本当は、そんな事しなくても分かってるのかもしれない。
「んっあぁ」
その声は、土方が坂田銀時だけを求める声なのだと。
こんな時になんでこうも自分は冷静でいられるのだろうか。
もっと怒りに身を任せて部屋に突入し、
「土方さんは俺のだっ!」
とでも言って万屋から引き離せば良いじゃないか。
そうできないのは、ずっと土方さんを見ていたからだろう。
本能的にもう気づいていたのかもしれない。
俺は、土方にとって「仲間」というカテゴリーの一部にすぎないと。
そんな俺が、今更なにを望む権利があるというのだ。
「あっ・・・」
愛しい人の声を聞くのは、こんなにも辛いのか。
それとも、辛いと感じながら、俺は耳を塞ぐ事さえ出来ないくらい、
この声が好きだというのか・・・。
部屋に背を向けて、空を見上げた。
今にも雨が降りそうなくらいの曇り空なのに、
太陽だけは、何にも遮られず、輝いていた。
------早く、近藤さんの所に戻らなくては。
私情で仮にも局長からの任務を放棄するとは、
俺は、まだまだ副長の座につけそうにないな。
沖田は後ろの戸を一瞥すると、自分の場所に走った。
無我夢中とはこのことかもしれない。
俺は、戻る為に走っているのに
まるで何かから逃げているようだった。
突然視界が歪む。
あぁ、俺は泣いているんだ。
花見会場の周辺まで来ると、
風で流れた桜の花弁が舞っていた。
------流石にこんな泣き顔で
「土方さんは来ませんぜぃ」
とか言ったら、近藤さんどんな顔するかな・・・。
今、冗談いえねぇよ・・・・・・。
「どうしたんだろう?あの人・・・」
「泣いてるー。なにかあったんだよ」
「うっわ・・・真撰組じゃね?」
「確か花見に新撰組の人来てた・・・よね」
「私、呼んでくる!」
やばいっ・・・ここに居ては皆が来てしまう!
公衆の面前だということを忘れてしまっていた・・・。
酔っているからとはいえ、近藤さんにはこんなとこ・・・・・っ
((ガシッ))
「えっ」
「隊長!こっちです!!」
腕を掴む男は・・・自称ミントンの王子だった。
「山崎!!」
一瞬時間が止まった錯覚から抜け出せないまま、
山崎は強引に俺を引っ張っていった。
作品名:土方十四郎の恋愛事情 2 作家名:烏丸@ツイッターしてます