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ぐらにる 流れ ばれんたいん

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毎日、家に戻るわけではない。だが、虫の知らせというのか、その日、戻ったら、姫がソファで眠っていた。手紙が届いていなかったから、唐突に時間が取れたのだろうと思われた。たまに、姫は唐突に現れる。たまたま、私が戻れずに逢えないままに帰ってしまう事もある。姫は、何も残さないが、綺麗に片付けだけはしていくから、存在だけは知らせてくれる。
 黒っぽいコートに埋まるようにソファで熟睡する姫は、まさに眠り姫だ。こういう場合、起こすのは目覚めのキスというのが定番だが、生憎と姫は、人の気配に敏感だ。
 私が近づく前に目を開けた。手には、銃まであって、私に向けられている。無意識の動作は、彼が、そういう世界にいることを如実に物語っている。
「熱烈な歓迎ぶりだ。」
「・・・あ・・・すまない。おかえり。・・・いや、俺が・・ただいまか?」
「どちらでも構わない。」
 ゆっくりと下ろされる銃を目の端に映しつつ、私は姫に抱擁する。何ヶ月かに一度ぐらいしか会えない恋人だが、その麗しさは、いつも変らない。
「いつまでだ? 」
「明後日の朝。あんたは? 」
「そういうことなら、予定は空けよう。出かける予定はないから都合はつけられる。」
「手紙、間に合わなくてさ。」
「そんなことはいいんだ。姫が会いに来てくれるだけで、私は愛されていると感じられる。」
「・・う・・そういうんじゃないんだけどな。」
「確かめさせてくれるか? 姫。きみの存在を存分に感じたい。」
「シャワー浴びさせてくれ。・・俺、二日ぐらい、このまんまだったから汗臭い。」
 なら、ふたりで、と、身体を離して手を差し伸べる。その手に、姫は優雅に手を置く。
「あんただけだぞ? 俺なんかを女扱いするやつなんてさ。」
「きみの周囲には美に対する芸術感覚が欠落した人間ばかりなのだな? きみの、この美しい手を知らないから、そういうことになるのだ。」
 姫は、必ず皮の手袋をしていて、素手を晒すことはしていない。仕事柄、指紋がつきそうなことはしないし、手自体も保護しているらしい。だが、ここでは、それをしない。私が、それを許さないからだ。ゆるりと、手袋を外し、綺麗な白い手を持ち上げて、シャワールームへ案内した。




 翌日、姫を起こさないように、静かにベッドを這い出して、軍へ出勤した。予定を空けるとなると、親友の助けが入用だ。
「ビリー、姫が来た。」
「おや、連絡なしなのかい。それはそれは。・・・わかった。今日は午後早くに開放してあげるよ。」
 私は、普段、ほとんど休みを取らないから、こういう時は融通してくれるようになっている。「姫が来た。」ないしは、「姫が来る。」 は、私の休みの合図ともなっている。その間は、緊急以外に仕事は定時上がりか、有給にするようになっているからだ。
 午後の早い時間で、仕事を切り上げたら、親友は、花束を差し出してきた。「紫のスイトピーなんだ。これを、きみのお姫様に。」
「ビリー、私の姫に横恋慕するのか? 」
「いいや、そういうつもりじゃないんだよ、グラハム。僕も、今夜、予定があったんだがキャンセルされてしまったんだ。せっかく用意したので、きみのお姫様に貰っていただけないか、と、思ってね。」
 ビリーには、なかなか靡いてくれない釣れない相手がある。どうやら、また、振られたらしい。そういうことなら、渡しておこうと、貰ったのだが、「きみは別に用意するほうがいいぜ。」 と、忠告された。
「姫は明日の朝には帰るから、花ばかり用意しても仕方がない。」
「ダメだね、グラハム。きみのお姫様は、わざわざ、これを貰うために来てくれたのに。そんなことじゃ先が思いやられる。」
「なんだって? 」
「おやおや、きみという人は・・・いい加減、恋人のためのイベントには気を配るべきだと思うよ。今日は、バレンタインデーだろ? 愛する人に花を贈る日だ。」
「バレンタイン? いや、断言してしまうが、私の姫は、そういうことに敏感ではない。たまたま、時間が取れただけだ。」
「なら、なおさら、花を贈って愛を囁いたらどうだい? 少しは見直してもらえるよ? 」
 さあ、今すぐ、フラワーショップに突撃しておいで、と、親友に追い出された。だが、私には、花の種類も花言葉もわからない。失礼にならない花というのが、どれであるのかわからないのだ。どうしたものか、と、フラワーショップの前で、考え込んでいたら、背後から肩を叩かれた。
「何してるんだ? グラハム。」
「ひっ姫? 」
「おまえ、こんなとこでサボってて大丈夫なのかよ。まだ、帰宅時間じゃねぇーだろ? なんで、花束なんて持ってるんだ?」
 姫は、手に買い物袋を提げていた。どうやら、夕食の材料を買いに出てきたらしい。
「これは、親友から、だ。」
「なんか祝い事か? 」
 姫の反応は予想通りのものだ。そんなことのために、わざわざやってくるわけがない。予定が空けられるなら、手紙が先に届くのだ。イベントのためだというなら、ちゃんと、手紙で予定を知らせてくるだろう。
「今日は、きみに花を贈る日なんだそうだ。私は、そういうことに縁がないので知らなかったんだが・・・・」
「俺、誕生日じゃないんだけど? 」
「バレンタインデーというものだ。」
「・・・ああ・・・んー、それは、女の子に花を贈るんだ。やっぱり、俺じゃねぇーよ。」
 あんた、また、『姫』とか吹聴してるな? と、呆れたように、姫は額にかかっている髪の毛をかきあげる。
「姫の好きな花は、なんだ? 」
「別にない。それに、花なんて貰っても持って帰れないからいいよ。・・・仕事は? 」
「『姫が来ている』から、午後から休みだ。これは、きみに、私の親友からの贈り物だ。貰ってやって欲しい。」
 紫の小さな花束を渡したら、貰ってはくれた。だが、姫は、「俺には似合わないな。」 と、苦笑した。
「きみに似合う花を私は贈りたい。」
「いらねぇーよ。それなら、そこの酒屋で、ワインでも買ってくれないか? それを、ふたりで楽しむってほうが、俺はいい。」
「白か? 」
「そうだな。ここで待っているから、選んで来い。美味いのじゃないと、俺は酔わないからな。」
 五十メーターほど先にある酒屋へ私は買い物に走った。姫は高級品がいいというタイプの人間ではない。飲みやすい軽いものがお好みだ。だから、いくつかの軽い白のワインを選んだ。
 元の場所に、姫は立っていて、道行く人を観察している。そこへ走り寄ったら、ピンクのスイトピーの花束を渡された。
「愛する人に贈るっていうなら、俺からでもいいってことだよな? 」
「私にピンクとは、どういう判断基準なんだ? 」
「あんたは可愛いからだ。・・・さて、帰って、メシの支度でもするか。」
 くるっと家の方向へ勝手に歩き出した姫の耳は、真っ赤になっている。どうやら照れているらしい。姫は照れ屋なので、滅多なことで、『愛している』という言葉を使わない。それだけで、耳まで真っ赤にするきみこそが、可愛いのだと、私は心の底で思いつつ、姫を追い駆けた。