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サイケデリック兄弟~王子様登場~

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馬だ。馬がいる。
 俺は思わず驚き、後ずさった。いくらその馬が白くて飾られてきれいで可愛くみえても、家の中にいたら後ずさるだろう。昨日まではいなかった。絶対にいなかった。持ち込んだ奴は一体誰だ。
「こんにちは」
兄に理由を訊こうと思ったが、今はマスターの都合でネット世界に出かけてしまっていた。俺が全然出かけていないとか思われているかもしれないが、俺だって仕事はちゃんとやっている。ネット世界はあまり出ないが。
 だから主夫じゃない。ここ重要。
「あの」
あの兄のことだから今日も津軽の家に寄って遅くに帰ってくるに違いない。今日も夕飯は一人か。寂しいな。昨日は焼き魚に肉じゃがの和だったから、オムライスかチャーハンかパスタか、何作ろう。
「デリック!」
「何だよ」
振り返ると知らない奴が立っていた。顔はマスターや兄に似ている。しかし格好は学芸会の王子様の衣装だ。頭には絵にかいたような王冠がのって、外套は暗い金色で床を擦るぐらいの長さがある。今俺の名前を呼んだのはこいつか。
「先ほどから何度も声をかけていたのですが」
「え?あ、悪ぃ」
馬の衝撃のせいで全く気付いていなかった。
 すると無視してしまったのがよほど気に障ってしまったようだ。だんっ、とテーブルを叩いた。ガラステーブルだから気を付けてほしい。
「私を全くここまで悉く無視し続けたのは貴方が初めてです。来訪者にはちゃんと気を回さないと易々と侵入を許してしまいますよ。私であったからよかったものの、貴方のように美しい容姿をしていたらすぐに襲われてしまうから気を付けなさい!それと、そこにいるのは私の愛馬のリヤナンシーです」
指を鼻先に当たるぐらいに突きつけられて一気にまくしたてられた。
 それぞれに一言言うなら、無視してしまったのは馬のせいだ。急に家の中に馬がいたらふつう驚く。そして侵入はまず無理だ。兄も俺も一応セキュリティソフトの一種に近い機能も持っているし、ここに入るとコードが残るようになってるからいつでもこっちから行けるようになる。あと、襲われるようなは絶対ないぞ。なんせ池袋最強と同じ容姿をしているからな。むしろ皆静雄のだって誤解して近寄ってこないんだよ。
 ところで、知らない奴だがどうも他人に感じられないのはやはり顔が同じだからだろうか。そして声がよく通ることからして、津軽と同じボーカロイド系統の奴か。
 誰だと尋ねると、そいつは一つ咳払いをして「日々也」と名乗った。聞いたことがない名前だ。
 するとタイミングよく、マスターとの回線が開いた。
『や、デリック。日々也と挨拶は済んだみたいだね』
どことなく疲れた様子だった。コートを着たままとは珍しい。若干髪が絡まってしまっているのは、静雄と喧嘩でもしてきたのだろうか。
 マスターの新しいやつだったのか。そう言おうと思って日々也の方を振り返ると、急に雰囲気が変わっていた。先ほどの高圧さは消えていた。
「イザヤ、彼が私の姫なのですね!」
「姫?」
姫と呼ぶべき女性はここにはいない。いや、そもそも彼=姫ってところを突っ込むべきなのだろうか。
 で、その彼を指しているのは明らかに文脈と場面からして俺となるわけだ。俺よりむしろ日々也が姫な気がする。気品的なものとか身長とか格好とかもろもろ。
 一人舞い上がっている日々也に聞こえないように、俺はマスターに近づいて言った。
「マスター、何なんだこいつ」
『多分テンションが上がってるんだよ』
全く、あんな格好に性格に設定した覚えはない。サイケの仕業かという小さな呟きが聞こえた。マスターにも予想外のことらしい。かなり悔しそうな様子だ。あれで兄はプログラムいじってウィルスだろうと何でも玩具にするからな。これもその結果か。
「ところで、こいつ一緒に住むのか?」
『いや、日々也にはちゃんと割り振りが……』
マウスを操作していたマスターが固まった。兄にいじられていたんだろうな。なにこれ俺に対するいじめと聞こえた。大丈夫だマスター。兄はあれで結構マスターのこと好きだから。好きな子ほどいじめたくなるっていう子どもと同じだって考えればいいんじゃないか。
『天蓋つきのベッドに白を基調としたヨーロッパの中世貴族が好んで飾ったようなメルヘンできらびやかな家具が置いてある部屋に自分と同じ顔をした王子様がいるんだよ?サイケの奴明らかに反抗期だよね。そんなに津軽をシズちゃんのパソコンに引っ越させたのを根に持っていたのかな?』
うん、日々也の部屋は凄そうだ。古城の一室ぐらいに考えておけばいいんだろうか。
 というかもともと津軽このパソコンにいたのか。それはきっと根に持つだろう。何で移したんだ?理由を訊こうとしたところで、マスターはウィンドウを閉じてしまった。
 振り返れば、打って変わって花でも背負っていそうなくらいに微笑んだ日々也がいた。手を取られ、そのまま手の甲にキスをされた。
「よろしくお願いします」
「よろしくな」
やれやれ。また面倒な奴が増えたな。