大嫌い
「ガゼル、」
「バーン、」
「俺は」
「私は」
「あんたが」
「貴様が」
「大嫌いだ。」
お互いがお互いをこの世で誰よりも憎くて誰よりも嫌い。
なのに、この世で誰よりも愛おしいと思うのは何故だろうか。
矛盾している。
こんな感情なんて出来るなら今直ぐに払いのけたい。
「ガゼル、雷門と戦ってきなよ。」
「…命令か。」
「お父様のね。」
「分かった。」
ガゼルはグランをきっと睨んでこちらには視線さえ向けず部屋を出て行った。
雷門と戦うのか。
良いな、楽しそうだ。
でも何でよりによってあんたなんだ?
俺だって同じマスターランクなのに。
何でプロミネンスじゃなくてダイヤモンドダストなんだ?
嗚呼苛々する。
本当、あんたが憎い。
死ねと心の底から思う。
大嫌いだ、俺の邪魔ばかりするあんたなんか。
昔から大嫌いだった。
いつも俺を嘲笑うような笑みで見るあんたが。
「バーン。」
グランは透き通るような白い顔を俺に向けた。
相変わらずムカつく顔でくつくつ笑っている。
なぁ知ってるか?
俺、あんたも嫌いだ。
ガゼルの次くらいに。
「僕、ガゼルの事好きでも嫌いでもないんだ。」
「だから?」
「でも、風介は好きだった。」
「…。」
「バーンは?」
ガゼルと風介、どっちが好き?
そうグランは俺に問い掛けた。
当たり前だ、そんなの決まっている。
「どっちも大嫌いだ。」
風介にしろガゼルにしろ同一人物なのだ。
どちらも俺が大嫌いな笑いを浮かべてやがる。
「バーンは、風介もガゼルも愛してるんじゃないの?」
「はぁ?」
ゆっくり考えなよと言ってグランは部屋を出た。
一人部屋に残された俺は椅子に座って足を組んだ。
ガゼルを愛している?
この俺が?
ガゼルが大嫌いなのに?
でも、あの時違うと直ぐに言えなかった俺がいる。
そうかもと少し思った俺がいる。
一体どっちなんだ。
何でガゼルなんかで悩まされなきゃいけないんだ。
腹立つ。
「グランは?」
ガゼルは再び部屋に来るなり言った。
今俺の頭を占めていた張本人のお出ましだ。
「さっき出て行った。」
「そうか。」
ガゼルはドアの前で暫く突っ立っていたが、ゆっくり俺の方を見た。
「私は、負けるかもしれない。」
「だろうな。」
「そしたらバーンは、私を嘲笑うんだろうな。」
「当たり前だ。」
ふっとガゼルは笑ってすたすたとまた部屋を出た。
何なんだ、負けるだなんてガゼルらしくない。
あんたが負けたなら俺も負けるんだろうな。
ガゼルより強いと見栄張っていても結局俺達は互角なんだって思ってしまう。
「嘲笑えよ。」
ガゼルは眉を上げて肩をふるふると震わせながら吐き捨てた。
ガゼルは負けたのだ。
厳密に言えば引き分けだがそれは許されない。
いつもの俺なら遠慮なく嘲笑って罵るとこなのだが出来なかった。
気付けばガゼルを痛め付けるくらいに強く抱きしめていた。
「痛…。」
「大嫌いだ、あんたなんか。」
「聞き慣れたね。」
「でも愛してるって可笑しいよな。」
ガゼルは驚いたような顔で俺を見てきた。
愛してるだなんて。
グランの言う通りなのかもしれない。
誰よりも大嫌いで誰よりも愛おしい。
こんな感情なんて捨ててしまいたい。