二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

長い長い家路

INDEX|9ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

アイランド1


アイランド1はバジュラ女王の惑星の浅海に着水し、宇宙船から惑星上の都市として機能を変えつつあった。
ランカ・リーは、週に1度、防疫医療センターを訪れるのが最近の習慣となりつつあった。
今日で3回目。
対応に出てきたのは、いつも通りのカサンドラ・アレクシーウ。30代の女性で、シェリル・ノームを担当する医師であり、軍医大尉の階級を持つ軍人でもある。
「体調はいかがですか?」
ランカは、カサンドラがしっとりとした声を好ましく感じていた。
「大丈夫です。元気です」
診察室の椅子に座ったランカは、慣れた様子で左腕をカサンドラにさしだした。
カサンドラは、その腕に血圧計やセンサー類を取り付けて、バイタルサインを測定する。
「問題ありません。では、こちらへ」
診察室の隣室には、ベッドがひとつ。その向こうに医療カプセルがあり、ガラスの部分から保護液の中に横たわっているシェリル・ノームの姿が見える。
ランカがベッドに横たわると、カサンドラは輸血用の針をランカの腕に刺し、チューブを接続した。
チューブは成分献血用の分離器に接続され、ランカの血液から免疫成分を取り出す。
免疫成分は別のチューブを通って検査機のチェックを通ってからシェリルの体内へ。
ランカが先天的に持つV型感染症への免疫をシェリルに分け与えるのが目的だ。
「シェリルさんの容態はどうなんですか?」
成分輸血が終るまでの1時間は、じっと横になっていなければならない。
ランカは眠り続けるシェリルの横顔を見つめながら医師に質問した。
「ええ、数値は安定しています。そろそろシェリルさん自身の免疫系も、わずかながらフォールド細菌が出す毒素への抗体を作れるようになってきたから…ランカさんに来てもらう回数を減らしてもいいかも。治療用のナノマシンも効果を発揮してます」
医療用ナノマシンは分子スケールの微小な機械で、体内から損傷箇所を細胞レベルで修復していく。
「良かった。それで…意識が戻るのは」
カサンドラは首を小さく横に振った。
「見通しは立っていません。数値は、すぐに目覚めてもおかしくない状態ですけど、V型感染症は私たちにとっても未知の疾病ですから、シェリルさんの体に、まだ見つけ出せていないダメージが蓄積しているのかもしれません」
「そう…なんですか…あっ」
ランカは横になったまま、声を上げた。
シェリルの腕が動いた。
「どうしました?」
医師がシェリルの顔をのぞきこみ、コンソールの画面を見た。
「ああ、今、動いたのはEMSです」
「いーえむえす?」
「ずっと横になってると筋肉が衰えますので、電気刺激で動かしているんです。褥瘡を防ぐ為に体位も、ゆっくりとですが変更させているんですよ」
「そうなんですか」
ランカは少し落胆した。
「でも…シェリルさん微笑んでいるみたい」
カサンドラの指摘にランカは改めて眠るシェリルの横顔を見た。
右の耳にフォールドクォーツのイヤリングを付けている。想いを伝える石であるフォールドクォーツが、シェリルの目覚めを促すようにとの配慮だった。
「本当」
瑞々しい唇が、咲きかけの蕾のように僅かに開いている。
「夢を見ている?」
「さあ」
カサンドラはコンソールで脳波をチェックした。夢を見ている波形は記録されていない。
「もし、見ているとしたら…楽しい夢なのかも知れません」
ランカは天井を見上げてから、瞼を閉じた。
この血液を、免疫成分を通じて、シェリルに元気を送れるようにと願う。

作品名:長い長い家路 作家名:extramf