気安く触んな
「ねえ」
「ああ?」
ある日ちゃっかり彼の家に上がった私は、彼の本棚から一冊の古びたアルバムを抜き出した。
赤い装丁は所々糸が飛び出していて、こげ茶になっているところもある。
「これ、小さいときの写真?見ても良い?」
「……見ても面白いものなんてないと思うが……」
「よし。見るわ」
バサリと開くと、ほこりが舞った。私は小さく咳き込むと、手を払った。
「やだ、もう……。……あら」
海辺の道場で佇む、彼の両親とまだ7にも満たないであろう彼の写真。
修行に疲れたのか、細かい傷をたくさん負い、袴を着たまま縁側で眠っている写真。
その数々の憧憬に、私は瞳をやわらかくすぼめた。
「幸せな幼少期だったのね」
「……まあな。その歳で単身修行に行かせてくれた両親には感謝している」
そういうことじゃなくて、と笑みをもらしたが、ふと、ページを繰っていた指先が止まった。
「……え?」
3歳……いやもっと幼いだろうか。
まだよちよちと頼りなく歩いていただろう彼と一緒に、近所中の少年少女とその母親が集まって写っていた。
……そして彼の隣に、一際瞳が大きく、髪の長い少女が両親の足元できょとんとカメラに目を向けていた。
これは、自分だ。
そしてこれが、まだ見ぬ・・・・両親の顔だというのだろうか。
「どうした?」
ひょいと持ち上げ写真を見つめた彼は、私が何に表情を変えたのか読めず、眉を寄せた。
「…………グリーン、その写真って……」
「おじいちゃんが、公園でよく一緒にいた近所の人と集まっていたときに撮ったらしいが。
……どうかしたのか?」
「ううん、別に……」
私はただ、あたたかな気持ちで頬を緩めた。
今度はだらしないほどの微笑みを私がたたえていることが、彼は理解ができないと言わんばかりに、もう一度写真を見つめ返した。
そのまま、何事もなく育っていたら、あなたの隣に、私はいたのかもしれない。
本当の、幼馴染だったのかもしれない。
「人生ってわからないなと思って」
「……お前が言うと暗く聞こえるからやめろ」
「私と貴方が今ここにいるのは運命だったのかもしれないと思って」
「……お前が言うとうさんくさく聞こえるからやめろ」
そうかもしれない、と私は声を上げて笑った。
ねえ、知ってた?
私って生まれたときからあなたのそばにいたのよ