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暗い空。そして普段より一層寒い夜だった。
ちらちらと白い小さな固まりが降ってきて、それが雪だと認識できるころには、イギリスがいなくなっていた。正確に言うのならば、イギリスの意識が今現在になくなっていた。
　こうやって、イギリスはふいに物思いにふけることがある。それは、冷たい雨の日であったり、夏の香りが近づく季節であったり、冬の夜空であったり。日常のふとした瞬間に、フランスには分らないちいさな何かがきっかけとなって、そういうことをする。それはもう長い間山のように記憶を積み上げてきたのだから、感傷的な気分にさせるようなものは砂の粒のように膨大ではある。フランスにだってそういうものは山ほどあるので、イギリスをとがめることはできない。ただ、イギリスのほうが感傷的になりやすいことになんだかなあとは思っている。
　無機質なコンクリートの道が白く染まり、その白は靴の底を湿らせぞくりとした冷えを伝えてきた。下から這い上がるような冷たさは果たして、単純に積りゆく雪だけのものなのだろうかと、フランスは思考を暗くしたところで、苦く笑みを浮かべた。雪、冬、夜、さむいつめたいくらい。一体イギリスは何に囚われている？それは俺が関係している？していない？砂の山をかき分けてもかき分けても答えなど見つかるはずもなく、ただ、雪を積もらせることしかフランスにはできない。長く生きていていると、人の心の機微に敏くなれはしても、中をのぞくことはできない。だから、なるべく思っていることを伝えてほしいと思っているのだがその願いがかなえられることは少ない。そういう奴なのだ。悲しいことに。


　ツンとした痛みを耳に感じるようになったころ、イギリスはようやくフランスを振り返った。一歩分の距離を埋めることなく二人は見つめあう。
「お前、なんでそんな泣きそうな顔してんの？」
引き攣る様な声は、小さく吐かれた。
「イギリス。お前こそ。」
「別に。」
お前には分るはずもないと返された言葉に、フランスは同じ気持ちを返して。
まだやみそうにない雪はちらちらと二人をさえぎる。

「ねえ、イギリス。帰ろっか。」
「……ああ。」
手のひらだけを重ねて二人は、再び歩み始めた。