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これでおしまい

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あの後。
たくさん話すことや訊くことがあるはずなのに、ナタリアの口からは何も出てこずに、ただ側に居座っているだけになっていた。
途中、ティアがガイを訪れてきてくれたことで何とか会話もあったけれど、ナタリアはほとんど喋っていない。ガイとティアの話しをぼんやり聞きながら、ガイの表情を悲痛な顔をしながら見ていた。

というのは、屋敷を出たあとのティアの指摘だった。


「わ、私、なんて失礼なことを」
「彼、もう眼は見えてないけれど、空気で感じ取ってしまうらしいから。心配してたわよ。ナタリアのこと」
苦笑するティアに、ナタリアは落ち込んだ。
確かにたくさんのことを考えていた。
時折、記憶の端によぎる過去の出来事にやりきれない思いが込み上げて、飲み込む。その繰り返しだった。
ぎこちなく笑うガイの表情に、落胆してしまったのも顔に出ていたのだろう。どうして彼は、こんなことになったのか。疑問だけが残り、ぶつけることが出来ずに屋敷を出た。
「ティア」
今なら、それを訊けるかもしれない。
そう思い、俯いていた顔を上げて、隣を歩くティアを見る。
「大佐は、どうしてなにもなさらいんですの」
真剣な面持ちの、それでもまた泣きそうに歪んだナタリアの顔に、ティアは歩みを止めた。
さらり、と淡い色の長い髪が揺れて、止まる。一瞬表情をなくしたティアの瞳に、ナタリアはもう一度、どうしてですの、と強く訊いた。
本当は、訊いてはいけない気がしたのだ。それでも、訊かなければいけない気がした。
「そうね」
街の賑やかな喧騒は近く、俯いてぽつりと呟いたティアの声を拾うのは、難しいはずなのに。それでもナタリアには、とても大きく、響いた。
「私からは何も。ただ、」
低く想いを押し殺した声。泣きそうに濡れた瞳を隠して、
「これは、ガイの意志だから」
ティアはゆっくりと歩き出した。
その場に取り残されたナタリアは、息を忘れたように佇んでいた。どうしてこんなにも胸騒ぎがするのか分からなかった。
街の喧騒が一気に遠くなり、耳に聞こえたのはやけに大きく聞こえる自分の心音。
いやな、予感がした。


それから、6日。
何度もジェイドに探りを入れるものの、彼は薄っぺらい笑顔を貼り付けたままナタリアの言うことなんて受け止めもせずに、軽く流した。昔からそうだ。同じことを繰り返すだけ。
でももう、ナタリアにも時間がなかった。
仕事を残して、長い間グランコクマにいるのだ。これ以上、ここに居るわけにもいかない、と思いナタリアはこの日、ガイの部屋にそえる為の花束を買い、ガルディオス邸に赴いた。
花束をメイドに手渡し、部屋まで案内され、この6日で慣れてしまった部屋の風景に違和感を感じた。
昼過ぎの景色を象る窓で揺れる薄いカーテンのレエスの向こうにある窓際に、小さな瓶を飾るように揺れる花を見つけ、首を傾げる。
二輪の花。水に挿しているのに、どこか作りもののようにも見える花はナタリアの不安をただかき乱すかのように存在していた。
二つとも花であることには違いないはずなのに、どうしてこんなにも違うように見えるのか。
もう6日も眠ったままのガイのベットを通り過ぎ、窓際へ歩み寄ると、ひとつの花弁が惜しげもなく散った。
ナタリアはそれを掬い上げて、手のひらに握りこみ、胸の前までもっていき祈るように目を閉じる。

胸騒ぎが、こんなにも、近い。


作品名:これでおしまい 作家名:水乃