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『独白』

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『独白』


彼に会いたいからと。それだけを言えば嘘になる。
第一、思い思ったとしても確実に会えない者に今更会いたいなどと。
それよりも俺ごときが。こんなになってしまった俺が彼に言う言葉ではない。
ましてやお前に伝えて良い思いではない。

会いたいだけだからと。それのみを言えば嘘になる。
彼に会いたいのか。会いたい訳ではない。ただ……

この星にはもう芽吹きもしない瑞々しき緑
かつては咲き誇っていた艶やかなる花よ。
瞼の裏を掠め胸の底をよぎり、俺の体の隅々を包み、俺を連れて行ってくれ。どこまでもどこまでも……ただ戻りたい。

(だから彼を−るのかもしれない−の男には目一杯馬鹿にされ罵られるだろう。お前だと。違う。そうだ俺は同期の男も知らない、分からない−……場所まで逃げたい。ああ、お前。)

今を生き続ける。ただ疲れ、お前に涙する思いも超えて超えて……枯れ果てそうだ。

思い巡らせ心を馳せ、その場所に行き着いたとしても特別何が変わる訳ではない。変わらぬ海変わらぬ砂。だが今は私だけ知る、私だけが覚える場所。

そしてここには……
日に燻された砂の足をひりつかせる感触。
髪を焼くような熱にたまらず、切りっ放しの髪を私は掻いていた。
……変わらぬ場所にいる者。涼やかな気配に振り返り、存在を確認し、互いふわりと笑みをこぼす。真黒の目に私は彼を映し、真青の目は私を映していた。
今は私のみが知る……彼。
鮮やかなる緑風瑞々しき花よ。そして
奥底に眠るただ君、艶やかなる花。
どちらも美しく何よりも簡単に私は捕らえられ連れ去られた。
だが甘過ぎたこの夢が私の現実の実に始まりだった。
始まりの過去
私のその場に必ずいる彼。

私のその場に必ずいる彼。
焼けつく日の光より煌めいていた薄こがねの流れる髪。
海以上に青く青かった目。
正しく友のように。笑い砂の浜を駆け、他愛ない話に興じた。
そして星空を見ながら、ふと物言わなくなる時もあった。
どちらが多かっただろうか。
互いたわむれの言葉を言い尽くした後、そうして黙り込む時。
星だけを見ていた事もあり、そっと彼を盗み見ていた事もあった。
どちらが多かっただろうか。鮮やかなる緑風瑞々しき花よ。
もしかしたら彼も問い掛けたかったのかもしれない。
私も知っていた。空を眺め星を映したその青い目が、小さな動作で私を見ていたことを。
それは緑風よりかすかな−……

どちらもまだ言えなかった。その心の正体は当然分かる。いつも目を合わせ笑い合った癖に互いの横顔すら盗み見ていた。その幼さが微笑ましい。
冷め切った癖に直情で、その素直さを初々しいとも、思いがけぬ幼さに軽く失望もした。
物憂く髪を掻き上げる仕草、空に吸われそうだったそのしなやかな髪。
青の目が私を捉えた時、血の沸く様なときめきを覚えた。
砂浜を駆け合った姿 言葉すら交わせなかった星空の下での姿。えも言わぬ思いに取り付かれた瞬間。
どれが私達の関係だったのだろう。
幸福な友人同士で良い。そう思った時もあった。
不安を抱える心の中を、彼に伝えてしまえば良いのかと思う時もあった。
緑風よりかすかな。伝えられもしなかった幼い。
始まりの過去にいる彼への心。
友と言い切るには惜しく、その癖封じてしまった思い。
彼の美点に惹かれたが、私は彼に大人びた面を求めた。
彼もまた同じだっただろう。私に何一つも伝えず。
嫌われてはいなかった筈だ。ただ、彼が私に求めた姿は私とは違っていた。
ただ幼いものだったから。互いに足りぬ姿を求め、探し合う事しか出来なかった。
だから心惹かれはしたが、それ以上にはならなかった。
友でもあり未熟な思いを抱き合い、あらぬ欲求に戸惑い。
それら全てが私と彼の関係だったのだろう。
緑風よりかすかな思い出。今や私だけが知る始まりの過去での、彼との幼い幼い思い。

側にいたのに何一つ、必要な事を互いに言えなかった。整理しておかなければならなかった気持ちをばらばらのまま、でもただ互いにたわむれているだけだった。だから訣別の時が一層、早いと感じたのだろう。
ろくに話せなかった別れ。かすかな思いの切れ端すら言えなかったあの時。
あの島の日以上に眩しかったこがねの髪と海以上に青かった目をこの胸に留め、彼との繋がりはここで絶ち切れる。
だから彼がその後どうしたかはもう絶対に分かり得ず、最早到底知る事は出来ない。
だが。どうだっただろうか。始まりの島の彼よ。
友として私は息災を切に願う。
彼よ。その後の私は……唯一つだけ幸福だった。
(今は見る影もない)
求める者に会い、求め続けるだけでなく、私を変え切っても共にいたいと思う者が出来た。
艶やかなる花よ。本当に本当に幸せだった。一時。
呆れる程の幸福に蕩けたから、だからふと元に戻りそれを思う。
彼も、何より君が奥底に眠ってしまったからそれを切に思う。

彼はその後どうだったのか、幼いあの時の思い出のまま私は彼を思い出す。
海の青さの目日の色の髪。笑い合った何も言えなかった。それきり止まってしまった思い出。
−……彼の好きだったこと。好きだった……花。
(彼もお前も花が良く合い。今の何もなくなった俺を散華するかの如く、あるいは誘う様に包んでいく。だがそれは都合良い俺の幻で、現実はただ花びらの様に全て流れて行く。)

友以上の思いを抱き、それを持て余していた時ですら。俺の目の前で髪を掻き上げながら無神経にも話していた。
私を見ながらも私に向かって求めていた男の姿。
俺に足りない男の姿。
黒い短い髪は、嫌いではないと呟いて。
俺を優しいと言っていた癖に、口喧嘩をした時に笑ってばかりの俺を信用出来ないと言い。
あの直情な青の目で、熱くはなれないから、生真面目過ぎる男に惹かれると遠くを見て言った。

強い強い男が良い。
何にも向かって行くどうしようもなく堅強な男が。
行方も分からなくなった。二度と会えなくなった。
幸せかどうかすら知ることが出来なかった彼を見守り続けることの出来る者が良い。
拗ねた唇は呟いていた。どうせ未熟な子どもみたいだと思っているのだろうと。
なら頼りとなる者が良い。
彼が好んでくれた俺の部分を残し、俺は俺に足りない全ての男を彼に与えよう。
始まりの過去、日と海と同じ彼の髪と瞳。
友と呼ぶには惜しく、ただ幼いまま終わってしまった始まりの過去の中の今はもう誰も知らぬ彼。
鮮やかなる緑風瑞々しき花よ
奥底に眠るただ君、艶やかなる花。私はお前に会えた。だが彼はその後幸せだっただろうか。会えただろうか。
会えることが出来ただろうか、ラ……
俺がそうすることで、彼も幸せになれるだろうか。

きみの上に一人兄がいる。
下?−……ああ勿論。直ぐに造れるよ。
作品名:『独白』 作家名:シノ