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アーネストは、肩を竦めた。ちょっとからかっただけだが、激怒したチナミは背を向けて去って行ってしまった直後だ。
「彼にはすっかり嫌われてしまっているようだ」
 そんな彼の呟きに、ゆきはやや眉を寄せた。
「ううん、そんなことない」
 否定されるとは思わなかった。
「ゆきには、先程の彼の態度も見えなかった?」
「見ていたけど、チナミくんはアーネストを嫌ってはいなかったよ」
 どこをどう見たら、そう言えるのか。理解に苦しむ。
「チナミくんは、外国人が好きじゃないだけで、アーネストが嫌いなわけじゃないよ」
「そうでしょうか?」
「だってチナミくん、それでもアーネストとも一緒に話をするでしょう?」
 本当に嫌っていれば、初めの頃のように避けられている、と言うわけだろうか。
「そうですかね?」
「そうだよ」
 ゆきはふんわりと微笑んだ。
「アーネストも、チナミくんを好きになってあげてね」
「まあ、努力はしましょう」
 そもそも、彼の方はあの年若い侍を嫌っているわけではない。と言って、親しいわけもないが。
「みんなのこと、好きになってね」
 さらに、そう乞うてくる。それは純粋さゆえに成せることか。
「それなら……」
 少し腰を屈めて、彼女の顔を間近に見る。
「ゆきのことも、好きになりますよ?」
 きょとんと、彼女は大きな瞬きをした。それから、また一層に深く微笑んだ。艶やかに。
「うん。私も、アーネストをもっと好きになるね」
 虚を衝かれたのは、彼の方だった。一瞬、表情を落とした。それから、頬の熱さを僅かに感じた。
作品名:more... 作家名:川村菜桜