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 さて、この関係は何であろうか、と言ってしまえば単純なようで複雑だった。
 このところのお気に入りらしいソファに我が物顔で寝転んだ少年の口から大事なたからもののように零れ落ちる四音は、門田にはひどく似合わないような気がしているのだ。
 ああでもないこうでもないと騒ぎを巻き起こすわけでもなく、自然と傍にいるようになったのは、いつからだろう。まるで足踏みをするように戸惑っている門田の所為だろうか、両手で数えきれないほどの少女たちを連れ立っている相手の所為だろうか。一向に何処へも進んでいる気はしない。それでも、「好きな相手でもいるのか」なんて返事に否、とこたえない程度には何かが変わっているのも確かだった。
 何をするわけでもない。何かがあるわけでもない。決定的なひとことを、口に出したわけでもない。
 それでも、気付けば転がり込むように部屋に居座られることにも慣れていた。
 拾ったまま懐いている大きな犬猫のように、いつの間にか警戒心を伴うこともなく距離を詰められている。その間にある空気は他の誰とも違うものでしかない。微かな緊張感めいたものを抱いているのは門田ばかりだというように、トレードマークの帽子も放り出して、背丈にも余るようなソファに、横になる姿はひどく無防備だ。
 適当に済ませた昼飯の皿を片付けて雑誌を広げながらソファの空いたスペースに腰を下ろすと、緩やかにその腕を伸ばして腰に絡みついてきた。
「おい?」
 珍しく膝を枕にでもしようとするような動きに反射的に髪に指先を絡めると、唇を軽くとがらせるようにねだるような声が掠れて空気を揺らした。瞬くように見上げてくる、甘い視線が反則技だ。
「千景、」
「……は?」
 実のところまだ、六条千景、という男について門田が知っていることは数えられるくらいしかない。片手では足りないくらいに年下の、高校生を相手にいつだって自分は防衛線を張ってばかりだ。
 いないところでばかり下の名前を呼んでいただなんて、今更のように気付いた事実に自分で少しばかり驚くしかない。おい、だとか、おまえ、だとか、そんな言い方にだって意味なんかない筈なのに。
「ちかげってよんで」
 そんな言葉ひとつで篭絡されそうになるくらいには、自分ばかり浮かれている。砂糖菓子を持たなくったって口の中で転がした言葉ひとつでこの男は心臓を貫いて見せるのだ。
「京平、」
 髪から離された指先が絡むように攫われて、重ねられた声が門田の、唇を誘い出していた。





作品名:短文 作家名:繭木