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twinkle, twinkle, little star

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「停電かと思った」
 言いながらイギリスはそっとアメリカの沈んだ巨大なカウチの肘掛に腰かけた。彼は何も言わないで、ただ眼鏡のレンズに緑色の光を反射させている。
 明かりがひとつたりとも灯されていない部屋を、飲み物を持ったままぶつからずに歩けた自分にイギリスはすこしだけ酔っていた。実のところその動きはかなりぎくしゃくしたものだったけれど、いまはそれもかまわなかった。
 ところが肝心のアメリカはこちらを見向きもしない。せっかく作ってきたウィスキーソーダは、だから手の中で汗をかきながら滑りやすくなっていくだけだった。それでもアメリカのほうから気づいてほしくてイギリスは待ち続けた。けっして両手がふさがっている上に声をかけるのが憚られたというわけではなく。
 薄っぺらい硝子の向こうで光を反射する瞳もまた、いまはふたつのビー玉のように見える。そしてときどき、クラッカーのような小さな音と緊迫した女の声が聞こえる。ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ。不規則なリズムを作る数字は、実は光の数をカウントしているのだと気づくまでにすこし時間がかかった。
「イギリス?」
「あ、」
「なにしてるのさ、もう。ほら、こぼれてないほうこっちにちょうだい」
「悪い。……ぼうっとしてた」
「見ればわかるよ。あーあ、手、完璧に冷えちゃってるじゃないか。終わってたんなら言ってくれればよかったのに」
「ん。じゃあ、拭いてくるから」
「はいはい」
 言い捨てて、再び液晶に視線を帰したのを尻目にキッチンに引き返した。濡れ布巾でおざなりにスラックスを擦ってから、零した分だけまたウィスキーを注いだ。
 中継なのだろうか。テレビはまだ暗闇の中で続けざまに光る緑色の星を飽きもせずに映し出している。
 それを自分のレンズに映しているほうも退屈しているようには見えなかったが、かといって真剣な眼差しもなく、ただただ目が離せないでいるとでも言うようにアメリカは膝を抱え、生きている証としてときどき瞬きをした。
 許可はもう得られていたので、今度はイギリスは軽くグラスをぶつけてまたもや同じ場所に腰かける。すこしだけ距離を縮めて、くっつくようにして。
 と、すぐ近くでアメリカが顔を上げた。
「ね、イギリス」
「なんだ」
「あれはどっちだと思う?」
「どっち?」
「いい夢か、悪い夢か」
 指差すのは液晶画面。ひとつひとつ揺れる光の粒。荒れた画面をときどき通り過ぎる砂嵐の向こうに透けてみえるのは。
「だって、あんなに遠い」
 炸裂音が聞こえる。
 すこしだけ熱い体温を感じながら飲み物を啜った。幾度かリモコンに手を伸ばしたもののどうしてか電源ボタンには触れられないでさまよわせているうちに、不意に掴まれて絡めとられてしまう。
 黙りこくったまま擦り寄ってくるのに視線は逸らされない。
「ベッドにいくか?」
「ううん、今日はここでいい」
 甘えるような声色に小さく微笑んでやった。けれどリネンルームからシーツと毛布をひっぱり出した帰り、彼の眼鏡にはまだ緑色の光がちらついていたから、イギリスはそれをゆっくりとはずしてやった。するとやっといくつかの緩やかな痙攣の末にまぶたが下ろされて、すぐに眠ったらしい頭がこつんと肩に乗せられる。しっかりとくるんでやってから自分でも目を閉じると、どうしてかまだいくつもの星がきらめ続けている気がして、けれどこれは夢なのだとイギリスは自分に言い聞かせた。そうして落ちる夢のない眠りを自分の知らない目覚めだと決めて。
作品名:twinkle, twinkle, little star 作家名:しもてぃ