二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

青の惰性を笑う

INDEX|1ページ/1ページ|

 
可哀そうな奴だと思ったのか、可愛い奴だと思ったのか。もう覚えていないし、今の俺にはその違いがわからないほど、あいつはひどく可哀そうでかわいい。
日向はわかりやすかった。傷付いています、と。でも笑っています、それに気付かないでください、と顔に書いてあった。しかし、聞いてみればここは死んだ後の世界だと言う。なるほど確かに皆それぞれ影を抱えていた。しかしそれでも、日向はわかりやすかったのだ。助けてください、と言っている気がした。言われている気がした。他でもないこの俺に、あの男は泣いている気がした。今思えばそれは贔屓目でしかなくて、まぁそれは単に好みだったのかもしれないと思う。助けてくれと泣きながら笑うそいつは、そう、かわいかったのだ。後日、ゆりにそれを(かわいい、とは流石に言わなかったけれど。)話したら一度大きく目を見開いた後、げらげらと腹を抱えて笑っていた。女の子としてあの笑い方はどうかとちょっと思ったけれど。「日向くんが泣いているように見えたって?そう、そうなの。貴方が、そうなのね。いいわ、じゃあ彼の事は貴方に任せましょう。」、彼女はあの男の何なのだろうか、それは聞けないままだった。
日向は、よく笑った。そしてよく俺に構ってきた、しかしそのくせしっかりと引かれたボーダーラインは太く長く。あちらから半強制的に「ここまでだ、」と距離感を決められた気がした。その卑怯さに多少腹立ちはしたが、そのご立派なボーダーラインはどこか薄く、付け入る隙が見え隠れしているようだった。その甘さが、最高に可哀そうでかわいかった。このボーダーラインを引き千切ってやったらどんな顔をするのかと思うとぞくぞくした、いつか暴いてやるつもりだった。暴いてくれと乞われている気がしていた。そしてある日を境にその色は途端濃いものになった。あれはひどい雨だった、ただ規定時間外に食事をした、それだけのことで独房に天使と二人放り込まれ、彼女の清潔そうなブレザーの袖から次々と放たれる異質なそれに助けられ、あれほど禍禍しい兵器が生えてくるとは到底思えない白く細い腕を取って走り出した先、そこにあったのは、惨状。死なないだとか死んでるだとか、そんな線引きがこの世界でどれほど意味を持つのかはわからないが、ただ生と死の線がぐちゃぐちゃに掻き乱れてそこに横たわっていた。駆け寄ったあの男の肌は白く赤く黒く、コレなのか?と頬に添えた手は震えていた。ああ、ああもうこれだから、お前はそうやって泣くように笑うから、笑うように泣くから、だからこんなにも腹が立つ、腹が立つ!その惨状の親玉様は随分と小さく、ああやはり、と。その目の熱さには見覚えがあった、彼女だ。色は多少違ったがそれが持つ熱さは、そう、全ての不条理を憎む目。傍らに横たわる彼女を見て、ああ、それなりに腕が立つのであろうあの男があそこまでして守ったものはここに、そして傷つけることができなかったものがここに。可哀そうだと思った、熱い目を持つ小さなそれがでなく、ただぼろ雑巾のようにそこに横たわるそいつが。お前の守るはイコール傷付くことなのだろう、大切なものの守り方を知らないということは自分の守り方も知らないということなのだ、だからお前は可哀そうでかわいい。生憎俺あの男のような方法を持たない、小さなそのリーダー様に手を差し伸べた、その目の色が変わったのがわかった。隣に横たわる彼女がまとう色も少し変わったようだった。しかし俺は気づいていなかったのだ、可哀そうでかわいいあの男の色の変化に。確かにその日を境に変わったのだ。どうやらあいつの境界線を足に引っ掛けてしまったようだった。それでいい、待ちわびた、やっと尻尾を出した。
その日、俺のシャツは黄土色に染まった。ひどい顔、そう、今まで見たことのないようなそりゃあひどい顔をしてあの男は俺のシャツにそれを溢した。これか、と。この男が必死に隠していたのはこれなのか。なるほど確かにその黄土色を見てざわついたその空気はこの男には耐えがたいものだろう、震える肩を抱きながらぐるり見渡せばただ彼女だけが真直ぐ全くぶれのない目でそれを見ていた。ああ、やっぱり、きっとこの男が一番隠したかったであろう彼女にはお見通しだったようだ、馬鹿だな、お前。俺が強引に喉からそれを引きずり出した黄土色と同時に溢れ出てきた涙をひたひたと受けながら、いかに彼女からこの男を奪うかだけを考えていた。

作品名:青の惰性を笑う 作家名:きいち