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Long long good-bye

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怒るかい?だなんて。
そんなの怒るに決まっている、だって臨也はそういいながらきっと、最後には帝人を置いていく。余計な期待をさせるような言葉なんか、一番聞きたくない。
「だって、待っててくれなんて、言えやしないよ」
答える臨也の声も震えている。残響は、桜吹雪を作る風の音にかき消されそうになりながら、それでも耳に残って染み渡るようで。
「どうしようもないだろ、こんなの……こんな気持ち。だって恋なんて、そんな長く続くものじゃないはずだよ?どんなに恋しくて愛しくても、時間が、容赦なく君を押し流して霞ませていくんだ。あの日の俺が薄れて朧になるように、同じように、君もそうなって俺は忘れてしまうんだよ」
「僕だって、待っているなんて言えませんよ」
「知ってる。だから、こんなに悲しいんじゃないか」
抱きしめる腕に力をこめて、臨也が帝人の首筋に頬を摺り寄せる。多分、今までで一番近くに居る臨也の体温に、流さないと決めていた涙が溢れそうになって帝人は焦った。
馬鹿みたいだ。帝人だって、ついていくことなんてできないくせに。
臨也の肩越しに、薄紅の桜がひらひらと降る光景を見詰めながら、帝人はただ涙を飲み込んで息を吐く。
この人はさよならを言いにきたのだと、分かっていた。きっと何事も無いようにただ桜を見て、じゃあまたねと背を向けて、そうしていつもの延長のような永遠のさよならにするつもりだったのだと、知っていた。
「忘れてしまうのは、怖いなあ」
二度目繰り返して、臨也が熱い息を吐いた。
ノスタルジアの狭間で揺れ動く今に、こんなにも恐怖している。
もしも今、臨也が待っていてよと、嘘でもいいから乞うてくれれば、帝人だって努力しますと答えるのに。もしも今、もう少しだけ帝人に勇気があれば、待っていてもいいですかと言えたかもしれないのに。
思い出の亡骸をかき抱いて、ぼろぼろと崩れていくのを悲しむような、そんなただの思い出になんかしたくない。
したくないのに。
「……桜を見るたび、君を思い出せたらと、思ったんだ」
掠れた臨也の声が、ゆっくりと、夜の空気に触れる。
「ありふれたものじゃだめだ。日常には無いもので、それでも、必ず一年に一度くらいは遭遇するものがいい。絵でも写真でもいい、とにかく、毎日じゃなくて必ずどこにでもあるもの。そんなの、桜くらいしか思いつかなかった」
この木のことだって覚えていたから、と臨也が言う。
この先帝人の思い出を上書きも更新もできないなら、せめて呼び出して色あせない努力をしたかった。忘れない、なんて嘘でも言えない。そう言って分かれた後、忘れてしまったらそんな自分に耐えられない。
だから、確約は何一つできないけど、それでも。
「覚えていてなんて、言えないよ」
日常から消える臨也に、帝人にそれを願う資格は無いから。



「せめて、思い出してくれ」



折原臨也の存在を。
ほんの一欠片、ときたまでいいから。
そんな男が居たことを。そいつが君をこれ以上ないほど特別に思っていたことを。そいつの手が人並みに暖かかったことを。そいつが君を忘れたくないとみっともなく君に縋ったことを、細くて小さな桜が重そうに満開の花をつけていた夜を、そいつがいつも君に触れることを望んでいたって、ことを。
時々でいい。桜が咲いたら、ほんの少しでいい。
臆病だったその男を。帝人の人生に少しだけ介在した事実を。もしもその男の名前を忘れたのなら、そんな存在がいたってことだけでもいい。
思い出して。
君を世界中の誰より愛する誰かが居た。ただそれだけの「今」を。
きっといつか、それは何年後かもしれないし、何十年後かもしれない、もしかしてよぼよぼの爺さんになってからでも構わない。
夜桜の下で、君を忘れたくないと泣いた男が居たことが、どうか、どうか、帝人の心に残りますように。時の流れに押し流されても、日の当たらない心の片隅に、どこかに引っかかって残りますように。風化して崩れ落ちて灰になったとしても、その灰だけでもいいから、残りますように。



「忘れたく、ないんだ」



君を。
竜ヶ峰帝人と言う存在を。
湧き上がって溢れた感情の名前を。笑顔に高鳴った鼓動の速さを。何度も何度も、臨也の手を握ろうか迷って結局引っ込めた小さな指先を。躊躇うように臨也さん、と読んだ声の甘さを、抱きしめた温度を、まっすぐに見据えた瞳の色を、桜の下で崩れるように微笑んだ、さっきの表情を。
きっと何度でも何度でも、掘り返しては思い出すだろう。
元気で居るだろうか、と。また無茶なことをしていないだろうか、厄介ごとに巻き込まれていないか、友人達とは上手くやっているか。恋人はできただろうか。
自分をまだ、覚えているだろうか。
……笑って、いるだろうか。
何年、何十年、かかるか分からない。戻ってきたとき、ここに帝人が変わらずに居る保証なんて無い。もしかしてそのときには、自分の隣にはまだ見ぬ誰かが居るのかもしれないし、帝人の隣にも、温かな存在が寄り添っているのかもしれない。何も分からない未来に、それでも。




「……君が、好きでした」




ただそれだけを置いていこう。
そしてもし、遠い未来にもう一度、めぐり合えたらそのときは。
今も好きです、と告げるから。




……だから、さよなら。
作品名:Long long good-bye 作家名:夏野