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その言葉だけで

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 やってしまった、と思ったけれど、時は既に遅くて、思わず苦笑がもれる。でもそれでこの場がやり過ごせるわけがなかったし、かえって雰囲気は悪くなってしまったようだった。
 そもそも、この胸にあるローズクロスを見た聖母に導かれて、ここを訪れたのがいけなかったのかな、と言ってしまったことに自分でも驚きと後悔を隠せないまま、僕はラビから目線を逸らした。その先に見える、先程訪れた聖堂はこの国でも有名なもので、その大きさからも美しさからも、国が宗教を重んじていることが充分に感じられるものだった。今、外から見えるその場所は、雪にまみれてもその存在を威圧感と共に発している。あぁ、でも、マナは確かに宗教信者だったけれど、だからと言って感傷に浸って、名前を呼ぶなんて、(なんて愚かなんだろう、)

 雪があまりにも静かに降るので、その場は静寂と言ってよかった。コートにも雪はそっと落ちて、肩にはすこし積もり始めていた。ゆっくりと、躊躇いを含みながら視線を戻すと、そこにはいつもの顔があった。
「なに見つめてるんさ、早く行こうぜ」
「ラビ、」
「汽車間に合わなくなっかも、ほら」
「………ラビ、」
 訊かないんですか。一番に言いたかった言葉は美しい白にまみれて消えていく。不安と緊張で強ばった僕の表情で、言いたいことはおそらく伝わったのだろうけれど、ラビの微笑みは崩れない。そう、いつでも。ずっと。
 こういうラビの何気ないやさしさは僕にとっては本当に有り難いもので、だからラビの隣は居心地がよかった。ラビと僕との関係はとても近いものにあるけれど、ラビはちゃんと知ってくれている。踏み込んではいけない場所があるということを。それは多分ラビにもあるもので、だから僕達はこうやってかなしくとも正常に成り立っていられる。でも今それが、僕のどうしようもない感傷から、崩れようとしているのだ。
「…いいよ」
「え、」
「言いたくなったら言えばいいさ。だから、」
 言って、ラビは僕の頭に積もった雪をはらう。ぐしゃぐしゃに髪を掻き回されて、一体なんだと思っていると、気付けばすぐ前にラビの顔がある。
「…どこにも行くなよ」
 似たような言葉を、いつか喧嘩して家出した時に聞いたな、と思った。喧嘩はいつも僕が悪いもので、それは分かり切っていたことなのに、マナは最後に必ず僕に謝った。その謝罪にまみれた声が、聞く度に僕は辛くて、その後泣きながらマナに謝ったものだった。ごめんなさい、と、何回も、何回も。
 でもそれも昔の話で、今、ここにいるのは、


 見つめられていたのはどれぐらいだったのだろうか。くるりとラビは僕に背中を向けて、顔だけをこちらに向けて行こう、と促した。いつも通りの、微笑みで。(たとえさびしさを隠すような声でも、)僕はラビに続く。僕の泣きそうな気持ちも、それを我慢する気持ちを、すべて悟ったようにラビは何も話してこない。揺らぐ僕の瞳の先にある、ラビの背中はまぶしい。

 泣きそうだ、
作品名:その言葉だけで 作家名:きみしま