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告白

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 始業式も入学式も終わってしまえば、それ以降はもう、今までの延長線上のような日々の繰り返しだ。
 それに不満があるわけではなく。ただ、そんな単調な毎日が続くことで、つい忘れてしまいがちだったことがある。
 ――――それでも時間は確実に積み重なっているのだと。

「悪い、遅れた」
「いや、まだ5分前だ」
 いつもとは少し違うやり取りの後、いつも通りゆったりとしたペースで目的地に向かう。
 高校生活も2年目で、偶々地理的に近い高校に通っている風丸とは、何だかんだで会う機会が他の面々よりも多い。多分、やり取りしているメールの数も一番多いのではないだろうか。
「そう言えば、新入部員。獲得できそうか?」
「そうだな……まあ、ぼちぼちといった所か」
「そりゃ良かった」
「そっちはどうなんだ?」
「うーん……何人か入ってくれそうなのはいるけど――――どうかな。やっぱり直前で別の所に持って行かれるかもしれないし」
「少なくとも1人は入るだろう?」
「ああ……宮坂のことか?」
「ああ」
「うん、何か本人はそう言ってたけど……」
「?」
「……いや。アイツさ、ずっと今の所陸上一本だから。一つしか違わない俺が言うのもなんだけど、今の内に違う事にも目を向けて欲しいなぁ――――って」
「……本人が聞いたらショックを受けそうだな」
「分かってる。……流石に、本人の前では言わないさ」
 風丸と同じ高校で陸上をしたいという理由で受験を乗り切った彼の後輩の姿を思い浮かべる。
 風丸が通う高校は、陸上などいくつかの部活の名門私立だ。毎年インターハイに当たり前のように出場を決める実力校で、そんな中、風丸は1年の最初の大会からレギュラーとして出場している。
 今年もまた短距離ランナーとして出場することが決まっているようで、ほぼ毎日トレーニングに励んでいるようだ。
 そんな風丸をあの後輩は、ずっと追い駆けている。
 周囲からすれば微笑ましい限りだが、追い駆けられる方は色々と思う所があるらしい。
(まあ、分からなくもないが……)
 ――――最後の最後まで、こんな自分を引き止めたチームメイトの顔が浮かんで、沈んだ。
「なあ、」
「……何だ?」
「映画見る前に、何か飲まないか?」
「ああ……」
 腕時計を確認すると、午後3時を少し回ったところだった。
 映画の上映開始は午後4時20分。時間を潰すのに、どこかの喫茶店に入るのはいいかもしれない。
「――そうだな」
「決まりだな。いつもと同じ店で良いか?」
「ああ」

 ショッピング・モールの映画館にこうして2人でやって来るのは、これで一体何度目になるだろうか。
 多分、片手の指では足りないだろう。両手の指では微妙なところだ。
 すっかり舌に馴染んだブラック・コーヒーを口に含み、ふと、ガラスの壁の向こうを見る。
 平日の昼間だからか、親子連れがあちこちで手を繋いだり抱き上げたりと忙しそうだ。主に、親の方が。
「鬼道?」
「――――いや、すまん」
「何か気になるものでも見つけたのか?」
「そういうわけじゃないがな……」
 多分、当たり前の、ありふれた光景なんだろう。
 見ているこちらの心を温める平凡な幸福は、時折自分の中の『何か』を刺激する。
 痛みにも似た感覚に、未だ自分は上手く対処することが出来なかった。
「……なあ」
「何だ?」
「……」
「……」
「……やっぱり後での方がいいか」
「何が、」
「いや。今言ったら困るかと思って」
「誰がだ」
「鬼道が」
「……意味が分からん」
「だから、それが分かっちゃったら困るんだよ。きっと」
「何故?」
「――――多分、どう反応すればいいか分からなくなる」
「……風丸、悪いがさっぱりお前の言いたいことが分からん」
「だろうな……」
「……」
「……」
「……言え」
「え?」
「言いかけて止められると、却って気になるだろう」
「ああ――――まあ、確かに。でも……」
「風丸」
「……あー……」
「……」
 ――――奇妙な沈黙。
 一体それがどれ程の時間であったかは分からない。だが、散々向こうがしつこいくらいに前置きをしていた『意味』は、すぐに理解できた。
「――――鬼道」
「……?」


「俺と、付き合って欲しい」


 《終わり》
これが、きっかけ
作品名:告白 作家名:川谷圭