二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

雷鳴

INDEX|1ページ/1ページ|

 
雷鳴

 曇天はあっと言う間に夜行の屋敷の上空を包み込み、時折稲光が走る。
「ギャー!」
 秀が大げさに悲鳴を上げる。
「なーんで雷がそんなに恐いんだよ……」
 掃除当番を命じられた離れの床を掃きながら、うずくまって震えている秀に声をかける。
「閃ちゃんは知らないんだよ、空を飛んでる時の雷の怖さが。はっきり言ってトラウマだよ」
 思い返して震える秀に、閃は冷たい。
「あー知らないね」
「でしょ?ホントに恐いんだからね!――ギャアー!」
 また窓から眩しい光が差し込んで、すぐ近くに雷が落ちた音がする。
「おー、今のは近くに落ちたな」
「やめて閃ちゃん、堪忍して……」
「だから家の中にいれば安全だから、な?玄関と外は俺が掃除してきてやるから」
 と玄関先用の箒とちりとりに手を伸ばすと、その手が途中で止まる。秀が閃の上着の裾を掴んだのだ。
「なにすんだよ!」
「お願い、一人にしないで……」
「乙女かお前は!」
「外なんて掃除しといたって言えばいいじゃない。ここにいてよ」
「お前性根まで腐敗したか」
 そこまで恐ろしいものだろうか。だって雷鳴に当たる確率なんて天文学的な確率だし、子供の火遊びによる火事のほうが夜行ではよっぽど恐ろしい。いや大人だって火遊びする。黄道の炎陽玉とか、それを金棒ですっ飛ばす轟とか。その余波に怯えるほうがよっぽど現実的だ。
 なのに秀は自分で自分を抱くようにして顔を真っ青にしてうずくまって、閃の服の裾を掴む手を離そうとしない。
「……」
 短くはない沈黙の後、閃は秀に向き直った。
「わかったよ。どこにもいかねー。ここにいるよ。これでいいのか?」
「うん。それと、もうひとつ……」
 秀は俯いたままで閃の機嫌を伺うようにチラチラと上目遣いに覗きこんでくる。
「?なんだよ、言えよ」
「ごめん閃ちゃん!」
 がばっと音を立てて秀が閃の胸に飛び込んできた。抱きしめた、などという色っぽいものではなく、頭から突っ込んできたのだ。
「!?!?」
「ごめん、ほんとごめん、しばらくこうさせて」
 尻餅をついた閃の背中に手を回して、秀は閃の懐に頭を埋めるようにして胸に耳を当てている。
「なっ、何してんだよお前!?」
「こうして誰かの心臓の音を聞いてると気が紛れるんだよ」
 それは、なんとなくわかる気がした。
 あたたかい家族も肉親の機微も知らない閃だが、他人の心臓の音が自分の心臓を沈めてくれたり、他人の温もりが自分をあたためてくれたりすることくらいは知っている。
 ハァ、と閃は溜息をつくと、秀の頭に手を載せる。子供にするように、自然に。
「……今だけだからな」
「ん、ありがと、閃ちゃん……」
 見た目より柔らかな秀の頭を撫でながら、閃もまた雷鳴に耳をすませて、それが去りゆくのをじっと待っていた。

                                  <終>
作品名:雷鳴 作家名:y_kamei